【裏銀】ゆっくり歩こう山と人生(裏銀座縦走)
※20220920~20220924裏銀座縦走
数年前、中房温泉から燕岳に登り、大天井岳、西岳を経て槍ヶ岳へ「表銀座」を歩いた際に知った「裏銀座」。まあ、確かに表があるということは裏があるのが世の常ですから、その時は「へー、裏もあるんだなー」くらいの印象でしかありませんでした。
実際、表銀座は圧倒的に有名で、よくネット上に山行記録が上がっていますが、裏銀座はそこまでの知名度はなく、人もそこまで多くないことから比較的情報は少なめ。それでも調べていくと、魅力的な場所が大変多いじゃありませんか。
これは行くしかない!ということでずっと行きたかったのですが、なんせある程度まとまった日数が必要なのですぐには実現せず、ムズムズしながら過ごしてきました。
そんな日々にようやくピリオドが打てる時が来ました。
9月のシルバーウィーク(いったいいつからこんな言葉が…)に有休をくっつけて大型連休を生成することに成功しました。
行きたいところが沢山あるのでオーソドックスな裏銀座縦走に加えて、寄り道もしつつ、4泊5日のテント泊山行です。
ではでは早速行ってみましょう。
<行程>
0日目:山形→信濃大町駅
2日目:烏帽子小屋→三ッ岳→野口五郎岳→真砂岳→水晶岳→祖父岳→雲ノ平
4日目:黒部五郎岳→三俣蓮華岳→双六岳→樅沢岳→左俣岳→槍ヶ岳
過去の北アルプスの記事はこちらからどうぞ。
- 始まりの雨(信濃大町駅→高瀬ダム※1日目)
- 日本三大急登(高瀬ダム→ブナ立尾根→烏帽子小屋※1日目)
- ガスの中を(烏帽子小屋→烏帽子岳※1日目)
- 最高の眺望(烏帽子岳→烏帽子小屋)
- 燃える空(烏帽子小屋→三ッ岳→野口五郎小屋→野口五郎岳※2日目)
- 天衝く頂、現る(野口五郎岳→真砂岳→東沢乗越→水晶小屋※2日目)
- 奥地(水晶小屋→水晶岳※2日目)
- 北アルプスの臍(水晶岳→水晶小屋→ワリモ北分岐→祖父岳※2日目)
- 最後の秘境へ(祖父岳→雲ノ平※2日目)
- 何も見えない世界(雲ノ平→祖父岳→ワリモ岳→鷲羽岳→三俣山荘※3日目)
- 燻リスナー卒業(三俣山荘→黒部五郎小舎※3日目)
- 白い黒部(黒部五郎小舎→黒部五郎岳→黒部五郎小舎※3日目)
- 荒天の夜中行軍(黒部五郎小舎→三俣蓮華岳→双六岳→双六小屋※4日目)
- 雷鳥に飽きる西鎌尾根(双六小屋→樅沢岳→左俣岳→千丈沢乗越※4日目)
- ラストスパート(千丈沢乗越→槍ヶ岳山荘※4日目)
- 温かい食事(槍ヶ岳山荘※4日目)
- 頂きへ(槍ヶ岳山荘→槍ヶ岳→槍ヶ岳山荘※5日目)
- 膝関節の酷使(槍ヶ岳山荘→槍沢ロッジ※5日目)
- バルトロ仲間(槍沢ロッジ→横尾→徳澤→明神→河童橋※5日目)
- 車を回収(河童橋→新島々駅→松本駅→信濃大町駅※5日目)
- まとめ
始まりの雨(信濃大町駅→高瀬ダム※1日目)
7:30 本来ならもっと早くタクシーを捕まえる予定でしたが、出発予定時刻には、もはや計画変更を覚悟したほどの雨が降っていて、こんな時間になってしまいました。
まあ、今日はブナ立尾根を登るだけなのでまだまだ時間的余裕はあります。焦らず行きましょう。
ということでタクシーを捕まえて出発です。
車内より。七倉山荘。
駅から50分ほど。ようやくゴールが見えてきました。
日本三大急登(高瀬ダム→ブナ立尾根→烏帽子小屋※1日目)
8:40 高瀬ダムに到着。ここから5日間の冒険が始まります。
「高瀬ダム」と聞くと、私が愛聴しているPodcast「非自立系男子ラジオ」で、高瀬ダムから南下して湯俣。そこから水俣川を渡渉を繰り返しながら遡り、北鎌尾根で槍ヶ岳に登るルートのことを話していたことを思い出します。
このブログを読んでくれている人はおそらく山が好きな人でしょうから、このラジオはおすすめです。ただ、「山」よりも「人」にフォーカスした話題が多くて、山の話を聞くというよりは、山好きのパーソナリティ同士の人間関係をのぞき見する感覚で楽しむのがいいかなと思います。毎回更新を楽しみにしています。
道草系アウトドアトーク | Podcast on Spotify
左奥に見えている山を登り切った辺りが烏帽子小屋かな?
ブナ立尾根は日本三大急登に数えられていて、ひたすら登りが続くようです。
これが今回のザック。縦走ではバルトロ85を使っていますが、前よりも多少パッキングが上達したのか、ちょっとスペースを持て余し気味です。
タクシーから降りて出発に向けて準備をしている間、ひっきりなしにダンプカーがトンネルに吸い込まれていきます。この先で工事しているのかな?
9:15 いよいよ出発です。
事前に調べた今回の歩行距離は約80km。この数字が傾斜をどのようにカウントしているのかは分かりませんが、とりあえず長距離であることは確かです。安全に歩けきれますように!
トンネルを抜けるとそこは雪国、ではなく、吊り橋がありました。
トンネルが結構長かった。
前にご夫婦が歩いていました。今日は烏帽子小屋に泊まり、翌日水晶小屋に向かうとのこと。お互いの安全を祈って、この先のブナ立尾根の取りつき地点で先を譲っていただきました。
工事していたのはここのようです。
橋を渡った後は砂地の河原を進んでいきます。
奥に滝からものすごい濁流が流れているのが見えました。(後から調べたら「無名滝」というらしい)
なんだか、とんでもない秘境に来てしまった感じ。
ただ、こういう人工物を見ると、人の温かみ、営みを感じられて安心できます。
私の体力は長野県遭難対策協議会の基準を満たしているのでしょうか。頑張ります。
9:40 ブナ立尾根取りつきに到着。
裏銀座縦走路の登山口。
「ブナ立尾根はスタート地点を「12」、烏帽子小屋を「0」としてほぼ等間隔に数字がふられていて、それを目安に休憩できるので、思ったより登りやすい」という直前に見た知らない人の山行レポを信じて登り始めます。
早速「11」と「10」を撮り逃しました。以後、同様の事案が頻発することが想定されますので予めご了承ください。
覆い被さってきている大岩。
もうトンネルがあんなに小さく見えます。斜度が急なので、その分サクサク標高を上げていっているようです。
途中、少し広い場所にブルーシートで何かが覆われて保管されていました。おそらく小屋関連の資材?
因みに午後から雨がぱらつく予報となっていて、雲が多め。樹林帯は基本的に薄暗く、昨日の雨で泥濘んでいて滑りやすいです。
雨が降る前にテントを張ってしまいところ。
不意に三角点。
顔を上げると「三角点」という名前が付けられている場所みたい。
地図を見るともう少しで小屋みたいです。意外と早かった。
ガスの中を(烏帽子小屋→烏帽子岳※1日目)
13:30 烏帽子小屋に到着。
使用料を払ってテント場に向かいます。テント場は小屋から南に5分くらい。ちょっと下ったところです。
テントを張っていたら天気が回復。予報と真逆の展開に驚きと喜び。
空身で烏帽子岳山頂に向かいます。
烏帽子小屋前の標柱。山名ではなく小屋名が主となっているところがツボ。
やはり登山者の安全を守るのが小屋なので、縦走を案内するところでは小屋を示すべきとのポリシーを感じます。
小屋から山頂に向かう途中の花。名前はまだない。
あれ、天気が回復したと思ったら、すぐにガスに巻かれてしまいました。ただ、この薄いガスの上に太陽を感じるので、少し風が吹いてくれたら一気に絶景が飛び込んでくるはず。
ほらほら、少し見えてきました。
山頂までは小屋からCTで50分。
振り返って見えるあの影は三ッ岳でしょうか。
お、そして山頂がお目見えです。尖った山容がかっこいい。
山頂直下は急峻な岩場となっていますが、鎖が効果的に設置されているので落ち着いて進めば問題ありません。
烏帽子岳の北側の山々もかなり雰囲気がよろしい。是非とも歩いてみたいです。
最高の眺望(烏帽子岳→烏帽子小屋)
15:10 烏帽子岳(2,628m)無事登頂しました。
山頂に着くとこの景色。ガスは抜け、素晴らしい眺望が広がっていました。
明日歩いていく山々が見えています。手前が三ッ岳、右奥のギザギザしているのが水晶岳でしょうか。
山頂の標柱が設置されているところよりも高いこの岩にも登れるみたい。
そこに登ると北側の山も見えます。
後立山の名峰たち。
奥中央の左斜面が綺麗なシルエットは白馬岳かな。
やはり不思議と、自分が登ったことがある山はどこから見ても何故か判別できるものです。
この岩肌が美しい山はどこだろう?針ノ木?
歩いてきた稜線と、その奥の雲海に浮かんでいる島は燕岳と大天井岳ですね。今回の縦走を考える契機となった表銀座縦走が懐かしい。
午後から雨のつもりで歩いていたので、これは完全に天国。
明日は夜のうちに歩き始めるので、名残惜しいですがそろそろテントに戻りましょうか。
何度も振り返って鋭鋒をカメラに収めます。
ああ、理想的な眺望。素晴らしい。大好き。
日が沈んでも贅沢な景色に、全く飽きが来ることはありません。
明日からはコースタイムで10時間超が連日続くハードスケジュール。自分の脚はもつのでしょうか、ちょっと心配です。
燃える空(烏帽子小屋→三ッ岳→野口五郎小屋→野口五郎岳※2日目)
2:00 起床。おはようございます。
テントから顔を出すと星が煌めく絶好の縦走日和。天気予報は2日目以降も微妙だったのでこれはいい意味で想定外です。
暗闇の中、朝食を済ませ、テントを撤収し、
3:30 烏帽子小屋を出発
因みに、起床時間が早すぎるためか、食欲が全くなく、それでも何も食べないのはシャリバテ必至なので、こんな時のために持ってきたレトルト梅おかゆを無理やり流し込みました。(山での朝食計4回、全てこのレトルト梅おかゆになるとはこの時はまだ思ってもいませんでした。自分は思ったより早起きが苦手なのかもしれません…)
真っ暗でヘッデンで照らした部分以外の視界が全く効かない状況の中、三ッ岳を通過。三ッ岳までの道は割としっかり登りです。自分の現在地が確認できないため、かかった時間以上に疲労感を覚えました。
三ッ岳を過ぎた頃から、徐々に左側(東側)の空が色づき始めました。
少しずつ世界が色を取り戻していく。(詩人っぽい)
暫くすると、空が大炎上し始めました。きっと東の空が不謹慎な発言をしたのだろうと思います。
と、くだらない冗談はさておき、目の前に広がる絶景に目を奪われ、ペースが落ちてきました。
今日は雲ノ平まで行きたいので、あまり時間を使いたくないのですが、写真も撮りたい私は、立ち止まって撮影→早歩き→立ち止まって撮影→早歩きを何度も繰り返します。登山の基本として、一定のペースで歩くことが体力温存に最も効果的であることは承知の上でしたが、目の前の景色を持ち帰りたい気持ちが勝ちました。
そんなこんなで前に進んでいくと「小屋まで500m」の文字が。地図を見ると、次に通過する小屋は野口五郎岳の少し手前にある野口五郎小屋。
野口五郎岳まではもう少しかかると思っていましたが、案外順調に進んでいるようです。
この写真。太陽がそのパワーで雲を切り裂いた、ようにも見えます。(私の想像力が豊か過ぎますかね。)
あと400m。
太陽が昇るだけで気分が上がり、もう目と鼻の先のように感じます。
来た道を振り返る。暗闇を進んできたため、既視感はゼロ。
5:45 野口五郎小屋に到着。
ここは北アルプスでも有数の強風が吹き荒れる場所として知られていて、屋根や資材が飛ばされないように大きな石が数多く置いてあります。
ここから今日は野口五郎岳→真砂岳→水晶岳→祖父岳→雲ノ平と歩いていきます。
小屋の前で少し休憩しましたが、あっという間に体温を奪われてしまい寒いです。
立ち止まると寒さに耐えられないため、ここからはズンズン進んでいきましょう。
小屋から5分くらいで野口五郎岳山頂が見えました。小屋と山頂なんてものは近ければ近いほどいいです。
天衝く頂、現る(野口五郎岳→真砂岳→東沢乗越→水晶小屋※2日目)
6:25 野口五郎岳(2,924m)無事登頂しました。
この山名は歌手の野口五郎氏に由来するものではなく、「この山が属する長野県大町市の集落「野口」に由来し、「五郎」とは大きな石が転がっている場所を表す「ゴーロ」の当て字である。(Wikipediaより)」とのことです。
山頂から小屋が見えました。水色の屋根がチャーミングな印象です。次は中にお邪魔してみたいです。
思ったより標高が高いことを意外に思いつつ、隣の真砂岳に進みながら、「この辺りからなら槍ヶ岳が拝めるはず」とそれがあるはずの方向を眺めてみると、、、
分厚い雲を天に向かって貫いて、それは佇んでいました。
最終目的地はあそこ。大幅な寄り道をしつつも、明後日にはあそこに辿り着いている予定です。
そう考えると、早く歩かないといけない気になってきたので、ここから水晶小屋までは立ち止まらない決意をしました。(いつのまにか真砂岳は通過していました、、、)
一旦、東沢乗越まで下って、水晶小屋まで登り返します。見ると結構登りそう。大変。
進行方向から少し右に視線を移すと、水晶岳から赤牛岳までの稜線。赤牛岳から先は読売新道という過酷な道らしいです。いつかは歩いてみたいですが、今回は生憎、赤牛岳まで足を延ばす時間がないのでスルーです。
更に首を右に回して、こちらは立山連峰でしょうか。去年歩いたのが懐かしく感じます。
今度は左に首をぐるっと回すと、先ほどまで雲の中だった槍ヶ岳が鎮座していました。
今回の山行の全行程は距離にして約80km。なかなかの長丁場です。
自分の脚がもつのか不安ではありますが、それよりも天気がもつのかが心配。
4泊全てテント泊を予定しています。今はコロナで山小屋は完全予約制なので、何かあった時に転がり込むのも申し訳ないので、多少の荒天は耐える覚悟。
ここから湯俣に下りることができるようです(竹村新道)。
湯俣と言えば、来年、あの「黒部の山賊」でお馴染みの伊藤新道が復活するとのこと。渡渉が続く難易度の高い道と聞きましたが、是非歩いてみたいです。
槍ヶ岳から北に延びているのは北鎌尾根。
「孤高の人」に登場し、主人公の加藤文太郎が帰らぬ人となった場所です。登山道はなく、各々が歩けそうなラインを選ぶバリエーションルート。まだいつかは決めていませんが、私も挑戦する予定です。
何度も北鎌尾根を眺めながらも自らに課した「休憩なし」を守りつつ先に進んでいきます。
写真左の山は鷲羽岳。あの奥に三俣山荘があるはず。実は今回、とある縁で三俣山荘のとある方は訪ねてみようと思っています。アポは取っていないので会えるかどうか、、、
兎にも角にも、まずは水晶岳です。1つ1つやりたいことを実行していきましょう。
待ってろ、槍ヶ岳
待ってろ、槍ヶ岳②
待ってろ、槍ヶ岳③
待ってろ、槍ヶ岳④
私は何回同じような写真を撮れば気が済むのでしょうか。
こちらは私の北アルプスデビューの地である燕岳です。燕山荘も見えていますね。また行きたいなー。
足元はこんな感じ。不安定な場所が続くので注意します。
少しずつ近づいていきます。基本的にこの辺りは平坦orやや下りなので疲れはあまり感じません。
8:00 東沢乗越に到着。
ここからは本格的な登り返し。
歩いてきた道を振り返りながらヒイヒイ登っていきます。
小屋の手前は地質が変わって、全体的に赤くなってきました。
この坂の上が水晶小屋です。しっかり休憩せずに辿り着けました。
奥地(水晶小屋→水晶岳※2日目)
8:45 水晶小屋に到着。小さくて雰囲気がいい建物です。
小屋の前で小屋番さんと登山者の方と長々と談笑してしまい、想定以上の休憩をしてしまいました。小屋番さんのご厚意で、山頂ピストンの間、小屋の前にザックをデポさせてもらえることになりました。ありがとうございます。
槍はまだ遠いですね。気長に歩きましょう。
ここから水晶岳山頂まではCTで50分くらい。空模様が怪しくなってきたのが気がかりです。
良い稜線。
小屋の裏から黒部五郎岳(左奥)が見えました。明日はあそこに登ります。
遠いなーなんて思っていたら、その手前にも今回の目的地がありました。というか、今日の目的地です。
ということでアップ。雲ノ平。
山を志すものであれば一度は訪れたいと願う「最後の秘境」と呼ばれる地。
黒部五郎岳もアップしてみるとなかなかすごい形。
カールと言えば穂高の涸沢カールが有名ですが、こちらの黒部五郎カールも相当の迫力。実際にあの中を歩いたらどんな気分になるのでしょうか。明日、答え合わせをしましょう。
この一番奥の山は一見、槍ヶ岳のようにも見えなくもないですが、こちらは笠ヶ岳。
笠ヶ岳は槍ヶ岳の西に位置する山です。「笠新道」という有名な急登があるようですので、一度は通ってみたいです。
この写真であれば槍ヶ岳と笠ヶ岳の位置関係がお分かりいただけるかと思います。
水晶岳までの道は、序盤は平坦ですが、山頂に近づくに連れて荒々しくなってきて、梯子もありました。
山頂まであと少しというところで、先ほど笠ヶ岳を見ていた時に向かって左にあった山がワリモ岳・鷲羽岳だったということに気が付きました。そちらも明日(といっても暗いうち)に行く予定です。
北アルプスの臍(水晶岳→水晶小屋→ワリモ北分岐→祖父岳※2日目)
10:00 水晶岳(2,986m)無事登頂しました。
北アルプスの中央に位置する水晶岳は、天気次第で殆どの山を眺めることができるようです。まさに北アルプスの臍。
何だかとんでもない奥地に来ちゃったなー。
山頂で記念に一枚撮ってもらいましたが、私の服装、なんか上下黒のスウェットみたいですね。「目立つ格好をしろ」という遭難対策の観点からみると0点です。すみません。
山頂の北側。ここを歩いていくと赤牛岳に繋がります。いつか。
小屋からより、ここから見た方が雲ノ平は見えやすいです。
と景色を楽しんでまったりしていましたが、頭に冷たい感触が。遂に降ってきたようです。ザックがびしょ濡れになるのは避けたい。大急ぎで小屋に戻ります。
ほとんど走るように小屋に戻ると、あるはずの場所にザックがありません。
「あれ?おかしいな」と小屋に入ってみると、小屋番さんが気を遣ってくださったようで、ザックが小屋の中に入れてくださっていました。何というホスピタリティ。何度もお礼を言って、小屋を後にしました。
写真は小屋の中にあった貼り紙。良い言葉。
雨が降っているのでカメラはザックの中。そんな時に限って現れるんですね、雷鳥さん。スマホのカメラで撮りましたが、レンズに雨粒がついていてフォーカスが合わず、何とも残念な写真となりました。まあ、でも雷鳥がいたという事実だけは記録できたので良しとします。
11:40 ワリモ北分岐に到着。
雲ノ平に向かうので、ここで右(西)に進路をとります。明日はここまで戻ってきて鷲羽岳方面に進む予定。
12:00 岩苔乗越を通過。
ここから45分ほどで祖父岳、そこから1.5時間で雲ノ平です。さあ、今日の行程はもう少しです。頑張りましょう。
いつの間にか雨が上がり、レインウェアでは蒸れて暑いです。
私はミレーのティフォンを使っていますが、ティフォンは透湿性が他のメーカー製品よりも優れている点がセールスポイント。であるはずなのですが、蒸れるものは蒸れますね。さすがに全く蒸れないなんて製品は現代には存在しないということのようです。
祖父岳に向かう途中に見えた鷲羽岳(写真の左端)。そこから下った鞍部に有名な三俣山荘があります。
雲ノ平方面に目をやると、雲ノ平以上にその奥に鎮座する嫋やかな山容の山に目を奪われました。地図で確認するとあれは薬師岳。北アルプスで一番美しい山と称される山のようです。
見た瞬間、恋に落ちたような感覚がありました。いつか必ず行きます。
最後の秘境へ(祖父岳→雲ノ平※2日目)
12:35 祖父岳(2,825m)無事登頂しました。
青空も覗くような好天になったので長めに休憩。
登るまでは祖父岳はただの通過点で大して見どころはないと思っていましたが、この絶景です。素晴らしい展望台でした。
先ほどより近くなった黒部五郎岳。誰かが山をスプーンで掬ったような山容となっています。
あ!三俣山荘を発見。赤い屋根がいかにも山小屋らしくて良いですね。
三俣山荘も槍ヶ岳が正面に見える好立地。あそこにも泊まってみたいものです。
雲ノ平山荘と薬師岳。
良き風景。眼福を得ました。
こうして見ると、やはりここまで歩いてきた稜線と比較して、槍穂の稜線は岩稜帯でギザギザしていて険しいのが分かります。
こちらは先ほどまでいた水晶岳。あそこにいた時は雨粒が落ちてくる直前で空は暗い雲に覆われていました。
スマホでパノラマ写真を撮ってみました。
さあ、そろそろ雲ノ平に向かいましょう。
祖父岳から雲ノ平までは下りになりますが、ザレた道が続くので足を捻らないように注意します。
まとまった下りを終えると分岐が出てきました。
地図を確認すると、祖父岳を越えずに三俣山荘に行くこともできるようです。その道には黒部源流の石碑があるみたいなので見てみたい気持ちはありますが、今回はより多くのピークを踏むルートをとることにしたのでまた今度来た時に訪れたいと思います。
道が平坦になってくると、すぐに木道が出てきました。何度も様々なメディアで目にしてきた景色です。
雲ノ平はユニークな名前の場所がいくつかあります。スイス庭園、ギリシャ庭園、アルプス庭園、アラスカ庭園、日本庭園。
この名前は雲ノ平を拓いた伊藤正一氏(三俣山荘・雲ノ平山荘のオーナー(兄弟)の実父)が名付けたと言われている、と誰かに聞いたような気がします。由来が気になる。
雲ノ平はこの山奥では珍しく広く平坦な土地となっていますが、これは祖父岳の噴火で形成された溶岩台地とのこと(Wikipediaより)。
脇役と思っていた祖父岳の活躍(と言っていいのか微妙ですが)でこの美しく登山者の誰もが訪れたいと願う場所を作ったとは。祖父岳さん、あなたの実力を見誤っておりました。失礼いたしました。
テント場に行く前にスイス庭園に寄り道。人がいないためか、満足感からか、時間がゆっくりと流れる感覚があり、とても気に入りました。
雲ノ平のテント場は山荘から離れていて、登山道からも外れて、下ったところにあります。かつては祖父岳から直接下りる道も使われていたようですが、現在は植生保護のために通行禁止となっており、ぐるっと回ってくる必要がありました。
14:45 ということでテント場に到着。
水も出ています。キンキンに冷えてやがる。
テントをぱぱっと設営したら雲ノ平山荘にテント場利用の申し込みとビールを求めて出発。
日が徐々に傾いてきて、光がいい角度で入り始めました。
山荘までの道も木道。
雲ノ平は植生を守る観点から、いたるところに木道が整備されています。
16:00 雲ノ平山荘に到着。
山には馴染まないような建物なのに、何故かしっくりくるという不思議な山荘。船のような印象も抱かされます。
中の雰囲気も味わい深く、次はぜひとも小屋泊を選びたいと思いました。
テント場使用料2,000円、ポカリ500円、缶ビール900円を買ってテントに戻ります。
テント場に戻って炊事を終えると日は山の向こうに隠れました。明日も長時間行動を予定しているので早めに休むことに。午後から天気が崩れる予報なのが心配材料ではありますが、そればっかりは自分でどうにかできる問題ではないので、自分の日ごろの行いを信じて就寝します。
おやすみなさい。
何も見えない世界(雲ノ平→祖父岳→ワリモ岳→鷲羽岳→三俣山荘※3日目)
4:30 おはようございます。
といってもこの時間に起床したわけではなく、2時に起床して2時半にテント場を出ました。そこから祖父岳を越えてワリモ北分岐に戻り、今はワリモ岳の山頂を目指しています。
今日は雲ノ平→ワリモ岳→鷲羽岳→三俣山荘→黒部五郎小舎→黒部五郎岳→黒部五郎小舎という行程で、CTで11時間半くらいかかり、休憩等を含めると12時間はかかりそうなので早めに出発しました。
4:40 ワリモ岳(2,888m)無事登頂しました。
ワリモ岳の山頂は岩が積み重なったような場所で、この頂上の標柱よりも上に岩山が続いていましたが、危険なので登山道は通っていないようです。
一応、山頂なので記念に自撮りをしてみましたが、ヘッドライトしか写りませんでした。まあ、この暗さですから仕方ありません。
こちらは今から目指す鷲羽岳のシルエット。一度下って登り返すあるあるのパターン。
暗闇の中の歩行になるので、まずは危険箇所に入っていかないことを意識して、マイペースで進みます。
正直、暗くてあまり辺りの様子を把握することができず、もちろん写真を撮っても何も写らず、今日のここまでの行程をレポートできないことが少し心残りです。今度はもう少し余裕を持った日程を組んでのんびり明るい時間帯に歩いてみたいです。
なんだか、「今度は~」と何度も言っている気がします。反省点、改善点が多いのは私の計画があまり練られていないことを表していますね、、、
5:15 鷲羽岳(2,924m)無事登頂しました。
登頂する頃には日が昇ってヘッドライトを使わなくても十分に歩けるようになりましたが、辺り一面をガスに包まれていて、結局視界は効きません。しかも、相当な強風。寒いです。
天気が崩れるのは午後からじゃないのかよ、と悪態をついてしまいました。
記念に写真を撮ってもらいました。ウィンドシェルが風で膨らんで、なんだかアナグマみたいな見た目になっています。まあ、風が吹いていなくても大したルックスではないので気になりません。
ここで早くも雨が降ってきました。折角、明るくなって写真を撮れると思ったのに。仕方なく、カメラをザックに仕舞います。
ここから三俣山荘までは標高差400mほどを一気に下ります。膝が痛い。
大方、下りを終えたあたりでこんな標識が。
「伊藤新道」
この道は雲ノ平の時にも書いた伊藤正一氏が雲ノ平を開拓する際に資材をスピーディーに現場に運搬するために作った道とのこと。メンテナンスの困難度等から随分前から廃道となっていましたが、クラウドファンディングで資金を調達し、補修作業が進められているようで、来年には開通するみたいです。通常の登山道ではなく、登山者にある程度の熟練度が求められるバリエーションルートだとのことで、私も開通したら是非とも歩きに来ようと思っています。
三俣山荘に会いたい人がいるというのはこのことに関係しています。
先ほどの標識から間もなく、昨日、祖父岳から見えた赤い屋根がガスの中に現れました。
燻リスナー卒業(三俣山荘→黒部五郎小舎※3日目)
6:15 三俣山荘に到着。
三俣山荘も雲ノ平山荘と並んで登山者の憧れとなっている山小屋で、槍ヶ岳を眺めながらサイフォンで淹れてもらったコーヒーを飲める素晴らしい場所です。(素晴らしい点はもっと沢山あります。恥ずかしながら、私の飲食に関する琴線が異常に太く発達してしまっているだけです、、、)
と言ってもまだ時刻は朝食の時間帯。食堂のオープンまでまだ数時間もあります。今回は諦めます。
朝の業務で大変忙しそうな中で恐縮だったのですが、気づいてくれた小屋番の方に声をかけて、会いたかった人がいるか確認すると呼んできてくれるとのこと。
初対面なのにアポなしで来た図々しい行為を今さら恥じつつ、その方を待ちます。
すると、、、
いらっしゃいました。Mさんです。
どなたかというと、私が愛聴しているポッドキャスト番組「非自立系男子ラジオ」のヘビーリスナー(同番組内では「超重量級聴取者」という)で、100mile走ったり、40歳で仕事を辞めて山小屋に飛び込む中々クレイジーな方。Mさんが三俣山荘で働いているという話を聞いて、「裏銀座歩くし、会いに行ってみるか」と思い立った次第です。
また、出発の2週間くらい前にMさんがインスタのストーリーズで「伊藤新道の地図が欲しい方は声をかけてください」と呼び掛けていらっしゃたので、伊藤新道を歩きたい私としてはそちらも手に入れたいと思い、こんな忙しいタイミングで押しかけてしまいました。
初めてお会いしたにも関わらず、気さくに対応してくださり、とても嬉しかったです。伊藤新道の地図に加えて、せっかく来てくれたから、鹿肉のしぐれ煮のパウチもいただいてしまいました。ありがたい。
それまで同番組は聞き専でメッセージを送ったことはなかったのですが、Mさんにお会いしてテンションが上がった私は翌日、メッセージを送り、燻リスナー(同番組で「聞いているのにメッセージを送って参加しない燻っている聴取者」を指す名称)を無事に卒業しました。
Mさん、ありがとうございました。
素敵な出会いの余韻がまだ残る中、黒部五郎に向けてリスタートです。
三俣山荘から黒部五郎に向かうには、三俣蓮華岳を越えるルートと巻き道がありますが、三俣蓮華岳は結局明日登ることになるので今日は後者を選択。
巻き道は、序盤はやや草木が茂ったエリアで、そこを抜けると写真のような石が転がっているエリア、その後はまた草木が茂っていつの間にか全身が濡れてしまい不快感を覚えるエリア(これは天気によるが)と続きます。
ここで巻き道が終了。
ここからは黒部五郎小舎まで300mくらい下ります。
天気は相変わらず。今日はずっとこんな感じなのでしょうか。まだ風が弱いだけ良いと考えるべきかもしれません。
樹林帯であまり景色がよろしくない下りを退屈そうな顔でこなすと、目の前にムーミン谷的な雰囲気の建物が現れました。
因みに、私は大きな三角屋根を見ると必ずこの表現をします。なお、ムーミンを見たことはありません。
そういえば、この下りのうちにいつの間にか雨は上がっていました。
白い黒部(黒部五郎小舎→黒部五郎岳→黒部五郎小舎※3日目)
8:40 黒部五郎小舎に到着。
これまで訪れた稜線上の小屋とは異なり、山の麓にあるので、さらに奥地感が高いです。
オコジョがかわいい。黒部と言えば岩魚も有名なので、そちらもしっかり描かれています。
テントを設営し、最低限必要なものだけを持って黒部五郎岳山頂を目指します。
登り始めてすぐ、後ろを振り返ると今朝の出発地点である雲ノ平の山荘が見えました。位置関係的には隣、黒部川を挟んで対岸に来たことになります。
スタートして15分も経たないうちに降雨。レインウェアを着用するほどではないですが、カメラは心配なので仕舞いました。残念無念。
薬師岳は分厚い雲の中に隠れています。
登りはなだらかで、息を切らすことなく進んでいくことができます。
徐々にあのスプーンで掬ったような黒部五郎カールの内部に入ってきたようですが、生憎の天気で実感は湧きません。
結局、カール内部に完全に入り込んでもガスはそのままで視界はなく、写真を撮らないまま、カールの上に登り始めることになりました。
希望としては、カール内部からその巨岩奇岩を際立たせたカールの全容をカメラに収めたかったのですが、、、
カールの上部に乗り上げる急登を終えると山頂への案内板がありました。
この辺りは風もあって体感温度がだいぶ低いです。
最後の登り。危険箇所はありません。
12:00 黒部五郎岳(2,840m)無事登頂しました。
正直、裏銀座を縦走する多くの人は、そのルートから外れる雲ノ平と黒部五郎岳まで足を延ばさない人が多数派です。雲ノ平はまだそこまで大きなロスにならないことから行く人は一定数いますが、黒部五郎岳へはその所要時間を考えると別の機会にする人が殆どです。
それは私も分かっていました。黒部五郎岳を諦めると行程に余裕が生まれて、もっとゆっくりと各スポットを楽しめるのかもしれません。
が、それでも来ました。それは何よりも山を歩くことに充足感を得る自分の性格を知っていたからです。天気は優れず、景色は望むものではありませんでしたが、それでも公開は全くなく、満ち足りた精神で山頂でのひと時を堪能しました。
この写真に写っていませんが、山頂ではオコジョを見ることができました。岩の間からぴょこぴょこと顔を出す姿はかわいらしく、癒されました。
山頂でゆっくり過ごしましたが、少しガスが薄くなってきたので、ぼちぼち出発。カール内部への期待(こちらも薄い)を胸に急な道を下っていきます。
やはり登りよりも下りが危険。足を滑らせて、何度も転倒しそうになりました。
うん、間違いなく行きよりもガスは薄いです。
急いでカール内部に下りてきました。
が、ここで無情にも雨が。しかもがっつり。
そのため、折角急いだのに撮れた写真はこれだけ。もう少し場所や構図を拘りたかったです。
カメラをザックに仕舞い、レインウェアを羽織り、急いでテントに向かいます。
が、私は重大なミスを犯しました。レインウェアを羽織っただけで、履いてはいないのです。そう、レインウェアのパンツを身に着けずに下山してしまったのです。気づいた時にはびしょ濡れで、今さら履いても意味がないという状況でした。
テントに戻ってからは濡れた登山用パンツとソックスの乾燥作業(乾くはずもない)と、奪われた体温を補うための栄養補給に追われました。
雨はさらに激しくなり、雷もなる始末。これは何年か前の剱岳敗退の記憶が呼び起されます。翌朝(というか深夜)の回復を祈って就寝しました。明日は槍ヶ岳まで、晴れてくれ。
荒天の夜中行軍(黒部五郎小舎→三俣蓮華岳→双六岳→双六小屋※4日目)
4:15 おはようございます。
三俣蓮華岳(2,841m)無事登頂しました。
辺りはまだ真っ暗で、とてつもない強風が吹き荒れていています。極寒。雨が上がったことだけが救いです。
今朝は2時半から行動を開始して昨日下った道を登り返して昨日の巻き道との分岐まで戻り、その後は初めて歩く道を進んできました。まあ、そうは言ってもこの時間じゃ、まだ暗闇でどこを歩いても何も見えないのですが。
三俣蓮華岳山頂の標柱は風で歪んでいました。
ここからは双六岳に向けて歩いていきます。
三俣蓮華岳から双六岳までは、稜線・中道・巻き道の3つの道がありますが、山頂を踏みたいので稜線コースで行きます。
少しずつ明るくなってきました。
道はなだらかです。
5:30 双六岳(2,860m)無事登頂しました。
山頂直下は割としっかり登りましたが、全体的に嫋やかな山という印象。
双六岳と言えばあの景色。そう、奥に槍ヶ岳が聳える双六台地です。あれが撮りたい。撮りたいのに、生憎の雨。先ほどよりも雨脚は強まっています。
仕方がないのでスマホで撮るしかないですね、、、
撮りたい構図はこんな感じだったのですが、カメラが鉄の塊と化した今、私は肩を落として項垂れることしかできません。
そうして落とした視線の先で私を励ましてくれていたのがこの雷鳥君。雷鳥を見ると、天気が優れないことも悪くないかもと思えます。
好天への期待に別れを告げ、槍ヶ岳を目指します。まだまだ遠く見えますが、数時間後にあそこまで辿り着けるのでしょうか。
笠ヶ岳もここから見るとまた違った印象。
雷鳥君の友達がやってきました。
2羽に先導してもらい、進んでいきます。
双六台地から先はいきなり結構な下りとなります。
雨で足元がかなり滑りやすくなっているので、何度も肝を冷やしながら進みます。
進行方向、この下りを終えたところに双六小屋があるはずなのですが、ここからはその先に急登が待ち構えているのが確認できます。
ここで稜線ルート以外の道と合流します。
やっと足元に小屋が見えてきました。大きな小屋ですね。
雷鳥に飽きる西鎌尾根(双六小屋→樅沢岳→左俣岳→千丈沢乗越※4日目)
6:30 双六小屋に到着。
魅力的なメニューが並んでいますが、まだ時間が早いので通過するほかありません。無念、、、
人気の小屋なので予約が大変そうですが、一度は泊まりに来てみたい場所です。
小屋から樅沢岳までは1時間弱。登り一辺倒の道を無心で進みます。雨さえ降っていなければもっと周りの景色を楽しめるのかもしれませんが、白いガスのような雲に包まれているため、目の前の坂に集中せざるを得ない。
7:15 樅沢岳(2,755m)無事登頂しました。ここは山頂感は薄く、あくまでも一通過点という印象。
ここでも雷鳥に会えました。ちょっと飽きてきたかもしれません。
歩いてきた道を何度か振り返るのですが、まだ暗いうちに歩いた区間が多いため、そこまで思い出す光景がありません。
そして、目的地が双六岳山頂から見た時よりも槍ヶ岳が近づいている気がします。少しずつですが、着実に進んでいるようです。
ん?樅沢岳山頂標識がここにも。
地図で確認すると、おそらくここは樅沢東峰。
これから歩いていく稜線の全貌を遂に捉えました。
小さなアップダウンを繰り返すようなので、体力がどんどん削られそう。覚悟が必要です。
双六小屋から写真奥の笠ヶ岳まで登山道が繋がっているのですが、そちらは槍ヶ岳までの道よりも遠いです。こうして見ても、かなりの距離に感じます。
スマホの写真なので画質が粗く見づらいですが、雷鳥が2羽隠れています。
しかし、こうして見てもかなり山深い場所ですね。
歩いていると、左前方に特徴的な見た目の尾根が見えてきました。
硫黄尾根。踏んだら崩れそうな脆い地質のように見えます。登山道はなく、バリエーションルートがあるとかないとか。
あと4.8km。遠いと思うか、近いと思うか。
8:00 硫黄乗越。
休憩するより、早く槍ヶ岳山荘に到着したいので、ゆっくりでもノンストップで歩きます。
双六岳~槍ヶ岳区間は西鎌尾根と呼ばれています。何年か前に歩いた表銀座縦走の西岳~槍ヶ岳区間は東鎌尾根と呼ばれており、東は急峻な岩場という印象がありますが、西は東ほどではなさそう。
とは言っても写真のようなちょっとした鎖場もあるので、特に雨などでコンディションが優れない日は注意が必要です。
ここまで出てくると稀少価値がだだ下がるですよ、雷鳥さん。
槍ヶ岳に近づけば近づくほどに感じてきていたことなのですが、最後の登り、きつ過ぎません?満身創痍であの坂を登らなければいけないのか。気(と体)が重いな。
左俣乗越。
この標柱の隣にあるテーブルには今朝、双六小屋を出発してきたという4~5組くらいのグループが休憩していました。
同じ北アルプス南部であっても、やはり槍穂高は他の山と違って明らかに岩感がすごい。こうして見ても、色が違いますよね。
鎖場も増えてきました。まあ、これくらいなら鎖を使わなくても容易にクリアできます。
険しさが標高を上げるのに比例して高まってきました。
重いザックが岩を乗り越えるたびに揺れて鬱陶しい。
さあ、そろそろラストスパートです。頑張れ自分。
ラストスパート(千丈沢乗越→槍ヶ岳山荘※4日目)
10:00 千丈沢乗越に到着。
「千丈沢乗越」と「千丈乗越」。どちらが正式名称なのでしょう。自分はずっと「千丈沢」と思っていたので、当記事でもそう書きますが、この標柱は「千丈」ですね。
最後の登りを前に、行動食を多めに口に放り込みました。久々にザックを下ろしてみようかとも考えましたが、二度と背負いたくなくなると思ったので控えました。
雨が強くなってきたので、急ぎます。
と言っても、ここで言う「急ぐ」は速度を上げるということではなく休まず歩くという意味です。ここにきて速度を上げてこの急登を進んでいく体力はありませんでした。
そして、雨脚は落ち着いていくどころか、どんどんと勢いを増し、ゲリラ豪雨並みのバケツをひっくり返したような雨が降ってきました。
上を目指して歩いているのに、上を見ることは妨げられながら進みます。
あまりの雨に写真を撮るのもままならず、気づけば急登を終えていました。
疲れました。
温かい食事(槍ヶ岳山荘※4日目)
11:20 槍ヶ岳山荘に到着。
全身びしょ濡れだったので、外の雨が凌げるスペースで着替えを済ませてからテント場の使用を申し込みました。
小屋番さんに聞くと、この天気で予約にキャンセルが殺到しているとのこと。また、テント泊予定だった人が「急遽小屋泊に変更してほしい」と要望してきているようです。
私は黙ってテント泊。この縦走は全泊テントで初めて完遂されるもの、という謎の拘りがあります。それでも「命の危険を感じたら迷わず」という選択肢はもちろん持っておきます。
山荘内に掲示してあった天気予報を確認。明日も雨かなー。
他に宿泊受付している人を観察していましたが、テントを選択した人は私が見る限り誰もいませんでした。
土砂降りの中、何とかテントを設営して、急いで山荘に戻り、昼食。
食事系のメニューはラストオーダーが比較的早いので、過去一の手際の良さでテントを設営しました。
残念ながら生ビールが売り切れていたので、自販機で缶ビールを買い、槍ヶ岳ブラックキーマカレーを食します。しっかりとした辛味と旨味が美味しい。
まず、温かいちゃんとした食事自体が久しぶりだったので心身共に回復していくのが、本当に実感覚として分かります。
今日は天気が悪いので山頂は見送り、明日の天気に望みをかけます。天気予報は微妙ですが、少なくとも今日よりは良さそうなので。
ということで、早めに休みます。おやすみなさい。
※その後、夜中にかけて天気は更に悪化し、またも剱岳敗退時の記憶がチラつきました、、、
頂きへ(槍ヶ岳山荘→槍ヶ岳→槍ヶ岳山荘※5日目)
おはようございます。
見てください、この天気。雲は多いものの、久しぶりに3日ぶりに青空が顔を覗かせてくれました。
歩いてきた黒部源流の山々。雲がかかっていてかっこいい。
今日はここから大きく崩れることはなさそうですが、それでも早めに行動を終えるのが山のセオリー。さくっと山頂アタックを済ませましょう。
小槍と裏銀座。アルプス一万尺で歌われている小槍はこのことを指しています。
今日は上高地に下山するので、裏銀座方面を眺められる時間は僅かです。目に焼き付けます
山頂までは往復1時間。往路と復路が重なる場所を中心に渋滞するのが常ですが、日の出に合わせた混雑ピークタイムが過ぎているので、比較的スイスイ登っていきます。
穂高までの稜線も御覧の通りはっきりと眼下に捉えています。
有名な山頂手前の最後の梯子。高所恐怖症の方にはなかなか優しくない角度と立地です。
7:00 槍ヶ岳(3,180m)無事登頂しました。
今回の縦走で踏むピークはこれで全てです。高瀬ダムからから、寄り道もしながら、よく歩いてきたものです。自分の脚を今は褒めてもいいかなと思えます。
記念撮影。何度か槍ヶ岳に登っていますが、今回が一番達成感があります。
山頂からは北鎌尾根が見えます。こちらは登山道がないバリエーションルートで、近いうちに挑戦しようと企んでいるので、どんなものかと偵察してみましたが、ここから見る分にはネット上で言われているほど危険な印象はありません。強いて言えば山頂直下くらいでしょうか。まあ、ここから見えていない区間が殆どでしょうから、下調べと準備は念入りに行う必要はありますね。
穂高方面を眺めていると、先月雷から逃げながら歩いた大キレットのことが思い出されます。滑るし、寒いし、雷が鳴っているしで、なかなかクレイジーな山行でした。
何度ここに来ても同じことを思っているような気がしますが、こんな僻地に大規模な山小屋があること。冷静に考えると異常ですよね。ありがたいです。
いつまでも山頂で縦走の余韻に浸っていたいところですが、後ろのスケジュールがあるのでそろそろ下山しますか。山頂から小屋までは鎖やピン、梯子はこれでもかというくらい整備されているので、それを活用すればそこまで危険を感じることはありません。山小屋の「絶対に事故を起こさない」という強い意志を感じます。
膝関節の酷使(槍ヶ岳山荘→槍沢ロッジ※5日目)
8:00 槍ヶ岳山荘を出発。下山を開始します。下山地である上高地までCTで6~7時間程度。下山は目標を失っていることから、経験則ですがCTの3倍ほどの時間を感じるでしょう。過酷な時間のスタートです。
さっきまでいた穂先に別れを告げて槍沢ルートを下ります。もうこちらに下りだすと裏銀座方面は見れません。
さあ、ひたすら標高を落としていきます。頑張れ、膝関節。
徐々に雲が増えてきて、上の方は薄っすらぼやけ始めました。
下山を始めてすぐ、殺生ヒュッテを通過。こちらは槍ヶ岳山荘のテント場が埋まっていた場合の逃げ場に使う予定でしたが、昨日の天気ではそんな心配は無用でしたね。
徐々に穂先が遠くなってきて、縦走の終わりを感じ始めます。少し寂しい。
ガレた道をただひたすらに下りていきます。
ここで足首を捻ってしまうと、その後の長い行程が地獄と化すので慎重さが求められます。
殺生ヒュッテから少し下ったところに「播隆窟」という岩の洞窟のような場所があります。槍ヶ岳を開山した播隆という僧侶が使った場所のようですが、4回目の登山では、ここに53日間も籠って念仏を唱えまくった場所のようです。狂気を感じるのは私だけではないはず。
入って写真を撮ろうと思いましたが、もし立入禁止の場所だった場合の炎上が怖いのでやめておきました。
ある程度下ってくると、登山道が幾分歩きやすくなります。
このルートは何度も沢を渡りますが、登山道がちょうどいい場所を通っているので靴が濡れるなんてことはありません。
滝見岩。どこに滝があるのかは不明。
9:20 天狗原への分岐点を通過。
天狗原を訪れたことがまだありませんが、天狗池という池があり、そこに反射する槍ヶ岳が撮れるということでフォトスポットになっているらしいです。いつかは訪れてみたいですが、私の写真の腕で良い写真が撮れるのか、甚だ疑問です。
この大岩という場所では多くの方が一休み中。登る人からするとここから斜度が増すので合理的な行動です。
どんどん下ります。ここは水がない。
下っても下っても景色は一辺倒。そろそろ飽き始めました。
この「曲沢」くらいまで来ると、もうほとんどスロープほどの傾斜となりました。
沢が近いと涼しくて気持ちがいいです。
「大曲」に到着。
ここは東鎌尾根の起点、西岳と槍ヶ岳の間の鞍部で、あの北鎌尾根への入り口の1つでもある水俣乗越への分岐です。
水俣乗越まではなかなかの急登で、これまでの登山道よりも圧倒的に歩く人数が少ないため、道は荒れ気味とのこと。まあ、北鎌尾根に行くような人はここで怖気づいている場合ではないと思いますが、、、
大曲で北鎌尾根への想いを強くしたところで、また歩き始めます。
沢との距離が近くなり、飛び込みたいくらい透き通った水面が目と鼻の先に。
ただ、相変わらず支流のほとんどは水がないです。雨が降った時だけ沢になるのかな。
10:10 ババ平に到着。ここはもう少し下ったところの槍沢ロッジのテント場です。周囲を高い山の壁に囲まれているので、ここでテント泊したら楽しそうですね。
ババ平から少し進むと赤沢岩小屋という看板。
「小屋」というのは名ばかりで、実態は大きな岩影でした。山小屋がなかった時代、登山者はここで休んでいたんだとか。
さあ、もう少しで槍沢ロッジのはず。肩に荷物が食い込んできて痛いです。
槍見。残念ながら槍は雲の中でした。
バルトロ仲間(槍沢ロッジ→横尾→徳澤→明神→河童橋※5日目)
10:35 槍沢ロッジに到着。
長く休むと歩きたくなくなるので5分だけベンチを使わせてもらって休憩。
槍沢ロッジから先は、これまで以上に沢の近く、というか隣を歩きます。風と音が心地よい。
二の俣。
支流から勢いよく水が流れ込んできます。
一の俣。
こちらもなかなかの水量です。
11:45 横尾に到着。
ここまでの行程も結構長く感じましたが、ここからの道のりは北アルプスエリアで最も嫌われているエリア。
果てしなく続く平坦で歩きやすいロードなのですが、だからこその退屈が登山者を苦しめます。
横尾大橋の奥に聳える山の裏側に大人気の涸沢があります。またテントを担いで訪れたいです。
横尾から徳澤まではCTで1時間10分。無心で歩きます。
徳澤にさえ着けば、私は回復できるのです。
12:40 徳澤に到着。
ここは登山者とキャンパー、観光客が入り乱れる人気スポット。
私は寄り道せずに目的のものへまっしぐらです。
はい、ありがとうございます。これが私の回復アイテム。
これは危険な食べ物です。脳に直接美味しさが押し寄せてきます。中毒者が出てもおかしくない。
束の間の休息で、体はもちろん心まで充電されました。
下流になってくると川幅が広がってきました。
上流から吹いてくる涼しい風を浴びながら明神岳を眺めていると、背後から「すみません。」と声をかけられました。
振り返ると知らない中年男性が立っていました。名前はIさん。
Iさんもグレゴリーのバルトロを背負っていて、今回がデビュー戦とのこと。上手く体にフィットしなくて難儀し、たまたま同じザックを背負っている私を見つけてアドバイスを求めて声をかけたということのようです。(「変な人に話しかけられちゃったな」と思ったことは内緒です)
ザックの調整自体をしてみたところ満足してくださったようで、そのまま流れで一緒に歩くことに。
今は名古屋に住んでいるけど出身は兵庫ということで、こてこての関西弁。話もおもしろくて完全に意気投合。大手飲料メーカーの営業で、単身赴任で全国各地に住んだことがあるらしく、名古屋の前には岩手に5年間ほど住んでいて、その時に職場の人から誘われたことがきっかけで山に登り始めたそうです。
お子さんは既に成人していて、奥様からは「死なないなら何をしてもいい。」と言われているとのこと。北アルプスも初めて訪れたそうで、「こんなに良いいいとこ、これまで知らなかったなんてもったいなかったわ。あんちゃん、もっと早く教えてや~!」と冗談抜きで25回くらい言われました。確かにそれくらい良いところだと私も思います。(もはや近くに移住したいという思いが年々強くなっています。)
13:50 明神に到着。ここまで来ると登山者より観光客の方が多いかもしれません。
「北アルプスのことをもっと教えてくれ」というリクエストに、なぜか山形県民の私が応えるという謎の時間でしたが、かなり盛り上がり、一人ならだらだらとその長さを恨んであるく河童橋までの道が楽しい山談義の場に変わりました。
写真は私とIさんのバルトロ。左の私の方が大きく見えるのは遠近法、ではなく、バルトのの中でも私は85L、Iさんは65Lのものだからです。
明神から先もIさんと山の話で盛り上がっていたので、あっという間に小梨平まで来ました。
Iさんは小梨平で風呂に入ってからバスに乗るとのことなので、ここでお別れです。Facebookを教えあい、山での再会を誓って別れました。
車を回収(河童橋→新島々駅→松本駅→信濃大町駅※5日目)
14:45 河童橋に到着。
ということで、無事に4泊5日の裏銀座縦走を終えました。お疲れ様でした。
終わってみるとあっという間の5日間。予定していたルートを歩ききることができて、達成感もひとしおです。
秋晴れ。
途中、天気が崩れる場面もありましたが、終わり良ければ総て良しということにしましょう。
河童橋は時間的なこともあると思いますが、想像よりは人手は少ないです。
私は登山靴で歩くのが嫌になってしまい、テント周りで履くための便所サンダルに履き替えました。
観光客の若いお姉さんグループから爆笑されながらスマホカメラを向けられてしまいましたが、バカでかいザックを背負って登山の服装をした男の足元が便所サンダルだったら私も違和感は覚えそうなので文句は言えませんでした。
上高地からは新島々駅までバス、そこから松本駅まで電車、そこで乗り換えて信濃大町駅までまた電車で向かい、車を回収します。
久々のクッション性のある物体に優しさを感じます。明らかに感動のハードルが数日前より下がっていることに気付きますね。
乗り換え。便所サンダルはここでも注目を集めてしまいます。
が、これからは登山者が圧倒的マイノリティの街に向かっていくのです。さらなる冷ややかな目が私を襲うことでしょう。こんなところで怖気づいていたらいけません。
松本駅から信濃大町駅までの車内は女子高生が明らかに私を見ながらドン引きしていました。
それでも無事に到着。
まとめ
今回の山行ではずっと温めていた裏銀座を歩け、様々な人と会え、美しい景色を愛で、幸せな時間を送ることができました。5日間も山に籠る夫を送り出してくれた妻には本当に感謝です。
次にやりたいことは槍ヶ岳北鎌尾根あたりですかね。バリエーションルート、どんなものなのでしょうか。体力向上に励んで準備したいと思います。
写真は三俣山荘でMさんがくれた鹿肉しぐれ。
あー、楽しかった。
ではではまた山に行ったら更新します。