※20200819~20200820穂高連峰縦走(ジャンダルム)
「ジャンダルム」
北アルプスの日本第三位の標高を誇る奥穂高岳の西南西に位置するドーム型の岩稜で、その垂直に聳える姿は圧倒的な存在感を放ち、見た者に憧憬の念を抱かせます。
名称の由来は、スイス・アルプス山脈のアイガーにある垂直の絶壁だそうですが、本来はフランス語で武装警察官、国家憲兵を指す言葉で、山岳用語としては尾根上の通行を邪魔する岩をそう言うようです。(Wikipediaより)
山に登る人間であれば、一度は登りたいと思う場所ではないでしょうか。
私も例外ではなく「いつかは登りたい」と思っていましたが、少なくとも今年行く予定はなく、もう少し経験を積んでからかなーなんてぼんやりと考えていました。
が、その時は突然やってきます。
同じ職場で登山をやっているKさん(よく当ブログに登場しているKとは全く別の方です。20歳以上離れてはいますが、仲良くさせていただいています。私では足元にも及ばないほどの山歴をお持ちです。)から、「ジャンダルムに行きたくて、7月26日から2泊3日に小屋泊で西穂から奥穂まで抜けたいんだけど、一緒に来てくれない?」とお誘いがありました。思ってもみなかった突然の話に驚いたものの、数年後に1人でテント泊の装備を背負って行こうと考えていた私としては、誰かと一緒に、しかも小屋泊で行けるのは、数年後の挑戦に向けた良い経験になるのではないかと思い、お話を受けました。
が、ネックだったのは、その日程の前日まで飯豊連峰を縦走する予定だったため、体力が回復するのかという点。それに、そもそも私のレベルで、踏破することが出来るようなコースなのかという心配も。そんな心配を抱えながら、予定日はどんどん近づいてきました。
※飯豊縦走は悪天候のより中止しました。代わりに行った山行は以下の記事をご覧ください。
そして、予定日の5日前。Kさんから「天気予報がとても悪く、危険だから延期しよう。」と連絡がありました。
残念でしたが、こればっかりはどうしようもありません。それに、内心、少し安堵した自分もいました。YouTubeやブログ等で、歩く予定のコースは何度か見ていましたが、滑落事故の話もあり、無事に帰ってくるイメージがあまり浮かんでいなかったからです。
そんなこんなで、Kさんと日程を再調整。8月19日からの3日間で挑戦することになりました。天気予報も3日間、大きく崩れることは無さそうです。技術不足はどうしようもありませんが、そんなことを言っているといつまでも行けなそうなので、覚悟を決めました。
19日の2時にKさんと集合して長野に向かうため、18日の仕事を午前で切り上げ、帰宅。急いで必要な食料等の買い出しに行き、パッキングします。夕方、寝ようとしたタイミングで1つ予定外のイベント(父親のスマホが不調で、代わりのものを購入し、セットアップ)が発生しましたが、何とかこなして睡眠。
予定通り、2時にKさんと合流し、何度かSAで休憩しながら、9時過ぎ、平湯温泉(あかんだな駐車場/1日600円(後払い))に到着しました。
今回のざっくりとした行程はこんな感じ。
<1日目>
山形から平湯温泉に移動
↓
↓
新穂高ロープウェイで登山口へ
↓
登山口から西穂山荘へ
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西穂山荘に宿泊
<2日目>
西穂山荘から西穂高岳へ
↓
↓
ジャンダルムから奥穂高岳へ
↓
↓
穂高岳山荘へ宿泊
<3日目>
穂高岳山荘からザイテングラートを通り涸沢カールへ
↓
涸沢カールから本谷橋を経由して横尾へ
↓
横尾から徳沢、明神、自然探勝路、岳沢湿原を通って上高地へ
↓
↓
平湯温泉から山形へ移動
それでは、この夏(この人生?)最大の挑戦が始まります。
- 文明の利器(平湯温泉→西穂高岳登山口)
- 睡眠不足(西穂高岳登山口→西穂山荘)
- 念願のラーメン(西穂山荘)
- 出発の時(西穂山荘→西穂高岳)
- いざ、本丸へ(西穂高岳→ジャンダルム)
- 最高ジャン(ジャンダルム→奥穂高岳)
- 雷鳥発見(奥穂高岳→穂高岳山荘)
- 祝杯(穂高岳山荘)
- 下山開始(穂高岳山荘→涸沢カール)
- サクサク下りる(涸沢カール→横尾)
- 退屈な林道歩き(横尾→徳沢→明神→自然探勝路→岳沢湿原→上高地)
- 無事、下山(上高地→平湯温泉)
- まとめ
文明の利器(平湯温泉→西穂高岳登山口)
10:40 平湯バスターミナルを出発です。
まずは新穂高ロープウェイの乗り場に向かいます。因みに乗車券はカード決済可能。(VISAとマスターだけだったような。間違えていたらすみません。)
Kさんは何度か利用したことがあるとのことでしたが、私は新穂高側から北アルプスに入るのは初めてです。
11:20 新穂高ロープウェイ乗り場に到着。
建屋の後ろにものすごい岩稜が見え、北アルプスに来たという実感が湧いてきます。
西穂高岳登山口までは一度乗り換える必要があるようです。
乗車券はトータルで2,000円。こちらもカード決済できました。(こちらは主要ブランドなら使えたはず。私はJCBを利用したので、JCBが使えるのは間違いありません。)
文明の利器を使い、一気に標高を稼ぎます。
ということで終点の駅までやってきました。
駅の屋上は展望デッキになっていて、360度、北アルプスの名だたる山々を望むことが出来ます。
こちらは笠ヶ岳。スケールの大きさに圧倒されます。
これから向かう西穂山荘方面です。
西穂高岳から先は完全に雲の中です。明日は晴れてくれよー。
一応、ロープウェイを使わずに登ってくることも出来るようですが、その道を私が使うことはないと思います。
今日の目的地である西穂山荘を発見。
コースタイムではここから1時間半ほど。サクッと登ってしまいましょう。
焼岳も存在感があります。
睡眠不足(西穂高岳登山口→西穂山荘)
12:30 登山開始。
駅から出たところに水場がありました。水はここで補給できるので、ここまで担いでくる必要はありませんでした。事前に調べておけば良かったです。
整備が行き届いた道を歩きます。
道は明瞭で、迷う心配はありません。
所々で、小屋を確認できます。
道も整備されているため、あっという間に到着しそうです。
と思ってハイペースで登っていましたが、睡眠不足が祟って、とてもきつい。
立ち止まるほどではありませんが、1日目はゆるふわハイクだと完全に油断していたため、メンタルがやられました。
序盤の余裕はどこへやら。
汗だく、へろへろで何とか辿り着きました。
念願のラーメン(西穂山荘)
13:15 西穂山荘に到着。
西穂山荘はちょうど森林限界点に位置していて、小屋より下は樹林帯、上は綺麗に開けています。
この標高にこれだけ立派な小屋がある。さすが北アルプスです。(1泊夕食付き9,400円)
少し曇ってきました。夕焼けはあまり期待できません。
小屋の中です。小屋は本館と別館に分かれていて、こちらは別館。
今日最大のイベントといってもいいと思います、西穂山荘名物「西穂ラーメン」と生ビール。
醤油と味噌から選べます。私は醤油。Kさんがご馳走してくれました。ありがとうございます。(ラーメン900円、生ビール800円)
テント場はこんな感じ。人気のテント場ですが、平日なのでそこまで混んでいませんでした。
恐ろしい注意書きを目にしてしまいました。
慎重に進もうと心に誓ったところで、誓いの一杯を。(400円)
山でキンキンに冷えたお酒が飲める。大変ありがたいことです。小屋の従業員の方や、荷揚げをしてくれている方には足を向けて眠れません。
西穂高岳は映画「岳」のロケで使われたらしく、山荘には出演者の方のサインや写真が飾られていました。
こちらは食堂。中は広く、結構な人数が一度に食事できそうです。
今年は新型コロナウイルス対策のため、透明なパーテーションで各座席が仕切られていました。
漫画も備え付けられていました。
本当にここは山小屋なのか。快適過ぎる。
小屋から見えるこちらの山は霞沢岳。西穂山荘から上高地を挟んで反対側にある山です。よく調べた訳ではありませんが、ロープを使わないと登れないらしいです。
いつか行ってみたいなー。(前からずっとクライミングを始めたいと言っているのですが、なかなか敷居が高くて進展していません。)
今回は小屋泊ですが、次回は是非テント泊で来たいです。(登頂してから言え。と自分で自分にツッコミを入れました。)
18:00 夕食です。
山の上でこのクオリティは最高です。ご飯、味噌汁のおかわり自由でしたので、どちらもしっかりおかわりさせてもらいました。
大変美味しかったです。ご馳走様でした。
夕ご飯を食べ終え、夕焼けを求めて丸山方面へ登ることにしました。
時間的にはギリギリアウトといった感じでした。
分厚い雲が、明日への不安を掻き立てます。
西穂高岳方面です。ノコギリの歯のようなところを歩かなければいけないみたい。
白くかすみがかった焼岳も趣があっていいですね。
明日、果たして私は無事に穂高岳山荘に辿り着けるのでしょうか。
神様、どうか私をお守りください。(なお、神様は信じていない。)
明日が本番なので今夜は大人しく寝ることにします。
— daichi (@dai2222222) 2020年8月19日
明日も星が出てくれる、と信じたい。
出発の時(西穂山荘→西穂高岳)
2日目。3時に起床しました。
本当は0時ごろに起きて星を撮影しようと考えていましたが、23時頃に目が覚めて窓の外を見た時に曇っていたので、諦めて眠りました。日付が変わったあたりから晴れたみたいです。残念無念。(Kさんは起きて星を楽しんでいたようです。起こしてくださいよー。)
だらだらと準備し、小屋を出て満点の星空を見ながら靴を履きます。私がこれまで見た星空の中で、ダントツでNO.1でした。あまりに綺麗だったので、パッキングした三脚を下ろして撮影しようと悩みましたが、今日の行程を考えると、ここで時間を消費するのは得策ではないと判断して諦めました。写真は、そこに星があることだけでも記録したいと思い、カメラのISO感度を上げて撮影しました。
(書き忘れていましたが、今回、西穂山荘で使わせてもらった部屋は、例年だと8名くらいで使用する部屋でしたが、今年は新型コロナ対策で布団が4つしかなく、しかもこの日は混んでいなかったので、Kさんと2人で広々と使わせてもらいました。)
3:45 いよいよ出発です。まずは西穂高岳を目指します。
いざジャンへ!
— daichi (@dai2222222) 2020年8月19日
4:05 西穂丸山に到着。
辺りはまだ真っ暗でここまでの写真がありませんが、ここまではハイキングコースといった感じで危険箇所はありません。しかし、私の持っているヘッドランプの光が弱く、後ろを歩いているKさんの光を頼りに、慎重に歩きました。(下山後、ヘッドランプを新調したのは言うまでもありません。)
4:35 西穂独標(2,701m)無事登頂しました。
ガレてはいますが、そこまで急ではない道です。
※独標直下のみ、一気に手を使って登るような道に変わりました。
独標で30分ほど休憩がてら写真を撮っていると、少しずつ辺りが明るくなってきました。
日が出てくると、自分がどんな場所にいるのかが分かってきて、恐怖感半分、充実感半分といった気持ちになります。
独標から先は1段階レベルがあがります。踏み外すと無残なことになるような険しい道に変化しました。改めて気を引き締め直します。
10峰に到着。独標から主峰(山頂)までは11の小ピークがあり、徐々に山頂が近づいていることが分かります。
あちらは朝日を浴びる笠ヶ岳です。昨日、昼間に見た時とはまた違った印象です。
振り返ると、独標で朝焼けを見ている人と、その奥が焼岳。一番奥は乗鞍岳かと思います。
柔らかい朝日を浴びる山々。この写真、割と気に入っています。
また、先程も言いましたが、独標から先は一気に険しくなっているのがこの写真だと少しは伝わるでしょうか。行かれる方はご注意を。
9峰に到着。岩場にも慣れてきて、楽しく歩けています。
山に登っていて一番好きな瞬間「自分が歩いてきた道を振り返る」
まだまだ序盤ですが、既に達成感があります。
ピラミッドピークに到着。したはずなんですが、進む先にまだ幾つもピラミッドが見えているのは私だけでしょうか。
そして、また振り返ります。
この時間の山が一番歩きやすくて心地良いですね。
遠くに富士山を偶然発見。(この写真の淡い色合いがとても好みです。※構図等は無視。)
6峰に到着。
チャンピオンピークに到着。
ここは先程のピラミッドピークのように立派な標柱はありません。
見えているあそこが山頂かな?
完全に太陽が昇り、光が強くなってきました。
2峰に到着。
そう言えば、独標で隊列(と言っても2人だけですが)を組み替え、Kさんに前を歩いてもらっています。
山頂直下の最後の登りです。なかなかの急登ですが、山に来た高揚感か、不安定な岩場から来る緊張感なのか、特にペースは落とさずいけそうです。
登頂直前。また振り返ってしまいます。
焼岳、乗鞍岳、霞沢岳。この1枚に行きたい場所が詰め込まれています。
いざ、本丸へ(西穂高岳→ジャンダルム)
5:45 西穂高岳(2,909m)無事登頂しました。
満天の星空からの雲一つない青空。ここまで、最高のコンディションで歩けています。
こちらはKさん。
KさんはSONYのαを使っています。私はNIKON使いですが、最近、SONYにも心惹かれているので、終始羨ましかったです。
穂高から槍までの縦走路がはっきりと見え、去年、表銀座を縦走した時の記憶が蘇ってきました。あの時も楽しかったなー。
今回は奥穂高岳までで下山する予定ですが、「この調子なら槍まで行けるんじゃないか?」と思えるほど快調な山歩きです。
雲一つない空のおかげで、影西穂もくっきりと出ています。
西穂山頂で少し写真を撮っていたら、ガイドと一緒に登っている女性から抜かされました。聞くと「ガイド料は結構するけど、運動に自信がない私を絶景スポットに連れて行ってくれると考えたら、全然安いものだよ。」とのこと。
今まで私はガイドを頼むなんて考えたこともありませんでしたが、確かにそういう考え方もあるなと思わされました。が、それ以上に、ガイドとして生計を立てられたら楽しいだろうなーという、難しいことを全て無視した、小学生のような憧れの感情が芽生えました。実際にガイドを職としたら、それはそれで大変なことが多いとは思うのですが、少なくとも今の私には理想的な生活に思えてしまいます。
さあ、まだまだ道のりは長いのでそろそろリスタートです。
すぐに急な岩の斜面を下ります。振り返ってみるとこんな感じ。こっち側から見たほうが尖がっていて雰囲気がありますね。
これから進む方向です。
道と言うより壁といった見た目ですが、私は憧れのジャンダルムはこの先にあります。一歩一歩、安全第一で進みましょう。
槍と穂高の間にある「大キレット」も近いうちに行ってみたいなー。
Kさんは去年、大キレットに行ってきたそうです。Kさん曰く、大キレットは梯子や鎖が多く、よく整備されているとのこと。(「ここを行けたなら、大キレットも楽しく歩けるよ」と今回の山行後に言っていました。)
大キレット、不帰キレット、八峰キレット、の日本三大キレットも3年以内くらいに行きたいですね。
年始に立てた計画では、今夏、白馬大雪渓から白馬三山、そこから不帰キレットからの唐松岳に縦走する予定だったのですが、何故だか、キレット未経験でいきなりジャンダルムに向かっている私。人生は予定通りにはいかないものです。
西穂山荘にもあった怖い看板です。ここでこれを見てしまうと、いよいよミスが許されない領域に立ち入る緊張感に襲われます。
西穂山荘から西穂高岳までコースタイムで3時間ほどでしたが、そこから奥穂高岳までは6~7時間。距離にするとたった数kmだと思いますが、大きなアップダウンの影響で経過時間の割に進まないコースです。
今年の春先から頻発している地震の影響で、このコースは例年以上に浮石が多くなっているとのこと。初めてなので昨年までとの比較はできませんが、確かに浮いていない石の方が少ないんじゃないかと思うほど、足元が安定しません。
慎重に進んでいくと、前方にYouTubeやブログでよく見たポイントを発見。
これが「逆層スラブ」です。
出発前は、「雨が降ったら特にここは滑って危なそうだなー」と思っていましたが、そんな心配は無駄になるほどの快晴。逆層スラブも乾いていて、ソールのグリップを効かせられそうです。
西穂高岳からジャンダルムの間には、
のように地図上に何箇所かチェックポイントが表示されていますが、実際には標柱等があるわけではなく、ここまではっきりと自分の位置を確認することが出来ていませんでした。
また、チェックポイントではないですが、個人的には間ノ岳への登りがガレガレで堪えました。後続者もいたので、足は疲れていましたが落石には細心の注意を払いました。
いざ、逆層スラブに取り付きます。
と言っても、鎖が設置されていて、困ったらそれを使えばいいので恐怖感はありません。
逆層スラブを越え、右側に前穂高岳が鎮座していることに気付きました。
あのギザギザは前穂というより明神岳でしょうか。
あそこに行くのにもロープを使ったクライミング技術が必要です。
うーん。やっぱりクライミング始めないとなー。
9:00 天狗のコルに到着。
写真は上高地方面です。
※ここを下山すると岳沢経由で上高地に下山できます。ただ、例年でもかなりガレていることで有名。に加えて、昨今の群発地震。非常に危険な状態のようです。
天狗のコルから長い登り返しを何とか耐えて、ふと顔を上げると、、、
出ました!この岩の塊!「ジャンダルム」です。
いきなり現れるこの姿、異様な光景とはこのことでしょう。
ここで気を抜いてはこれまでの頑張りが水の泡。
慎重にガレている岩場を慎重に一歩ずつ、目標に近付いていきます。
来ました。ジャンはすぐそこ。最後の登りです。
最後まで慎重に行きましょう。
最高ジャン(ジャンダルム→奥穂高岳)
10:15 ジャンダルム(3,163m)無事登頂しました!
登山を始めて5年。上高地すら知らなかった私がこんなところに来られるなんて、想像もできませんでした。感無量です。
山頂には先行者が2名いましたが、ジャンダルム山頂の広さは、多くても5名くらいが限界かなと感じる程度。毎年、滑落事故が多発している場所なので、喜びながらも緊張感は常にあります。
落ちてるゴミ拾ってたおかげで晴れました✌️ pic.twitter.com/dRxoNOpqpJ
— daichi (@dai2222222) 2020年8月20日
Kさんと写真を取り合ったりしながらお互いの頑張りを称えます。(ツーショットを撮り忘れましたのは後悔しています。)
長いコースタイムで疲れがないということは決してないはずなのですが、山の魅力に天気の良さが相まって、充実感が疲労を吹き飛ばしました。
ジャンダルムから、これから進む奥穂高岳を眺めます。
ここまでもとんでもない道(壁)を進んできましたが、ここからも「ロバの耳」「馬の背」などの危険な場所が盛り沢山。
「私は山荘でビールを飲むんだ。決して落ちてはいけない。」
目を閉じて3回、強く念じました
穂高にはこれからも通い続けることになるでしょう。
北アルプスの盟友を繋ぐ縦走。ロマンが溢れまくっていてヨダレが止まりません。
この区間も来年、再来年あたりまでには歩いて、Kさんに少しでも近づきたいです。
さて、これだけの快晴ですが、午後から雷雨になるとの予報なので、そろそろ奥穂高岳に向けて出発します。
目標のジャンダルムに登頂し、「気が抜けて危ないかなー」と思っていましたが、そんな余裕は全くない「気を抜かなくても危ない」不安定なコースでした。
緊張感と充実感の絶妙なバランスが心地よく、山の魅力を全身で満喫できています。
少し進んだところからジャンダルムを振り返ります。
さっきまで、あの異様な岩の塊の頂にいたのか。どうやって登ったんだろう(笑)
山頂を望遠端でパシャリ。
あの特等席を独り占めしている方がいらっしゃるじゃないですか。羨ましい!そしてカッコいい!
見れば見るほど、「どうやって出来たんだこれ。」
後ろを振り返りながら進んで滑落したら洒落にならないので、そろそろ先に集中します。
お、ここが有名な「馬の背」のようです。
奥穂側からジャンに向かう時は下りになるので怖そうですが、今回は登りなのでそこまで難しくなさそうです。
ただ、危険箇所であることは間違いありません。油断せずに進みます。
直下まで行くと確かに傾斜はなかなかのものです。
KさんはYouTubeで何度もここの動画を見てきたらしく、「岩にぶつかるかもしれないからカメラは閉まった方が良いかも。」と、サコッシュにカメラを入れています。
Kさんも私も、ここまでPeakDesignのCaptureでザックにカメラを付けていました。
私は特に詳しく下調べをしていないので、Kさんに倣ってカメラをザックに入れました。
※結果論ですが、カメラが邪魔になるほどの道ではありませんでした。Kさんも「カメラ出しておけば良かったー。」と残念がっていました。
この区間の写真を撮りにまた来なければ。再訪の理由が出来ました。
Kさんに続いて馬の背にクライムオン!
両側が切れ落ちていて高度感はありますが、岩の割れ目など、足の置き場に困ることはありません。
アスレチック感覚で楽しく登れました。
※ヘルメットに装着していたOsmoActionのRECボタンを押し忘れるという凡ミスを犯し、高度感溢れる映像を撮ることが出来ませんでした。やってしまった。また必ず来るので、その時は忘れず撮りたい。
無事に馬の背をクリアし、ジャンダルム方面を振り返ります。
急激に雲が湧いてきてしまい、この写真を撮った直後にあのシルエットは完全に白い世界に消えていきました。
さあ、ここまで来れば奥穂高岳山頂は目と鼻の先です。
雷鳥発見(奥穂高岳→穂高岳山荘)
11:55 奥穂高岳(3,190m)無事登頂しました。
奥穂高岳は1年ぶり、2回目の登頂です。去年はソロで上高地から涸沢経由で登りました。去年は山頂から見ていたジャンダルムでしたが、今年はその場所に登ることが出来ました。改めて達成感が込み上げてきます。
残念ながら辺りはガスに包まれ、景色は見られませんでした。
奥穂山頂から穂高岳山荘までは30分程度。
ここからはビールへのカウントダウンでもしながら歩こうかと思っていた矢先。私の初めてが奪われました。
そうです。雷鳥です。
初めての雷鳥を、まさかこんな人が沢山通るようなところで見ることになるとは。驚きました。
カメラを向けても全く逃げる様子が無かったので、思う存分撮影させていただきました。動画も撮れて大満足。
全く逃げない雷鳥に別れを告げ、山荘に向かいます。
雷鳥もいいが、ビールが恋しい。
涸沢岳、奥には北穂高岳が見えます。そう言えば、涸沢岳から北穂までの道もなかなかスリリングだと聞いたことがあります。槍穂縦走の際に確かめることとしましょう。
雲がどんどん上ってきます。やっぱり山ですね。
小屋が見えました。稜線のコル部にある穂高岳山荘。昨年は通過しただけでしたが、今年は1泊お世話になります。
小屋直前の梯子エリアが一番高度感があり、危険な気がします。
ビールが近づいているからと言って、焦ってはいけません。
祝杯(穂高岳山荘)
12:45 穂高岳山荘に到着。
途中の休憩等を含めて丁度スタートから9時間。国内最難関の区間を無事に踏破することが出来ました。
まずはサクッと受付を済ませます。今年は新型コロナウイルス感染防止のため、受付の際に記入する紙の裏面にパーティー全員の情報を記入することなっていました。
なお、この穂高岳山荘。なんとクレジットカードカードが使用できます。文明の発達はこの標高まで到達しているようです。「悪天候時、現金がなくなったことを理由に小屋を出発せざるを得ない状況がなくなるように」という小屋の計らいで導入されたそうです。有難いですね。
受付を終えたら、もう我慢できません。お待ちかねのビールです!
乾杯!!!
(2日連続でKさんにご馳走してもらいました。ありがとうございます!)
沁みます。生きてます。 pic.twitter.com/y9g5AzGpJc
— daichi (@dai2222222) 2020年8月20日
Kさんと2人でお互いの無事を祝いながら、あっという間にビールを飲み干し、それでも足りない私はザックから持参したワインを取り出し、二度目の乾杯。
いつもは冷静なKさんも、ずっと目標にしていたジャンダルムに登頂した喜びとお酒の力でいつもよりハイテンション。グビグビとワインを飲み干していました。
小屋の北側には涸沢岳。ここからなら10分ほどで登頂できます。一応3,000m峰です。
こちらは先程登頂した奥穂高岳方面。
写真に写っている箇所が一番急です。ここを越えると目立った難所はなく、楽しく山頂まで歩けます。
しっかり酔っぱらったところで一旦、部屋に入ります。
酔っぱらっていても食事の時間のチェックを忘れないあたりに、自分自身の食い意地の汚さを感じますね。
今回、割り当てられた部屋は2階の「浅間山」。
このラインナップの中では微妙かな(笑)
トイレの個室はこの3つ。何回かローツェにお世話になりました。
例年であれば、大部屋に布団がぎっしり敷き詰められているのでしょうが、今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のために、木の板の仕切りが出来ていて半個室状態。
小屋の営業は大変だと思いますが、これはこれで快適でした。
夕飯はこんな感じ。昨日の西穂山荘もそうでしたが、ボリューム満点で味も間違いありません。またもや当然のようにごはんとみそ汁のおかわりまでいただきました。ご馳走様でした。
夕飯を食べ終えたら、夕日を待ちながらのんびり小屋の周りを散策します。
ここのテント場にも泊まってみたいなー。
山荘の水は宿泊者は無料で使うことが出来ます。
涸沢カールは平日ということもあり、テントはそこまで張られていないですね。
このノコギリの歯のような山容は前穂の北尾根でしょうか。カッコいい。
8月末でもまだ雪渓が残っています。さすが北アルプスです。
東側に見える綺麗な三角形は常念岳です。今度はあっちから穂高方面を見てみたい。
小屋の西側、白出沢コースは群発地震により浮石が多発してしまい、通行禁止措置が講じられていました。
私達も当初はこのコースで新穂高に下りる予定でしたが、登山の1週間前にこの事実を知り、下山を上高地に変更しました。
白出沢を除くと真っ白で下の様子は全く窺えません。
奥穂の肩から覗いているのは先程登頂したジャンダルムです。
うーん。見れば見るほど「ただの」岩壁です。登れるようには見えません。
日が傾いてきました。
雲が多過ぎて山肌が赤く染まることはなさそうですが、これはこれで綺麗です。
ありがとうジャンダルム。おかげで少し強くなれたような気がするよ。
さすがの標高です。雲があんなに下に見えます。
夕日を撮影し終え、部屋に戻ってゴロゴロしていたらいつの間にか寝てしまいました。
一応、星を撮影しようと2時間おきに窓から外の様子を確認していたのですが、私が見た時に限って雲が出ていたようです。Kさんが何回か起きて見た時は満天の星空だったようです。(起こしてくださいよー。※2日連続2回目)
Kさんからは「起きたという夢でも見ていたんじゃないか」と言われてしまいました。。。
3日目。
翌朝、「やべ、星撮ってない!」と外に飛び出しました。
一応、星は写りましたが、太陽が顔を出しかけていたので、そちらの光が強く、星は消えかけといった感じでした。
もう少し早く起きれば。
というか、ちゃんと夜中に撮れよ自分。(気付いていないだけで、疲れていたから仕方ないですよね。。。)
辛うじて星を撮った後は、そのままご来光を待ちます。
幻想的な雰囲気です。
常念岳の向こうが赤く染まってきました。雲海も綺麗です。
朝日に照らされるテント場。最高のロケーションじゃないですか。
ここ、必ず泊まるに来るぞ。
朝が上ってきました。
8月と言えど、北アルプスの朝晩はかなり冷えますが、太陽の光が体と心を温めてくれます。
この景色を見るためだけに山に泊まるという方もいるのではないでしょうか。
最終日もいい日になりそうです。
朝ごはんはこんな感じ。例によって、ごはんとみそ汁のおかわり、今回もいただきました。ご馳走様でした。
下山開始(穂高岳山荘→涸沢カール)
6:00 穂高岳山荘を出発します。
3日目は穂高岳山荘からザイテングラートを下りて涸沢へ。そこから本谷橋経由で横尾、徳沢、明神、上高地へと下山します。
このルートは昨年度も通ったので、なんとなく昨日より冒険感は薄れますが、相変わらずの快晴に気持ちは上向き。最後まで張り切って歩きましょう。
涸沢へは700mほどの標高差。一気に下ります。
ザイテングラートはヘルメット推奨区間で、ある程度危険な道に分類されますが、そこまで浮石が多いということでもなく、足の置き場に困るような場所もないため、自分のペースで歩けば特に怪我をするようなことはないと思います。
下りながら、朝日を浴びて輝く岩肌に見とれてしまいます。
夕方の光も綺麗ですが、私は朝の光の方が元気が出る気がして好きです。
やはり穂高周辺の山容は迫力がありますね。
そろそろザイテングラートを抜けます。
この時間になると、奥穂にアタックする涸沢宿泊組の方々が登ってきます。去年の自分を思い出しました。あの時は初のソロテント泊で、あの何にもとらわれない感覚が新鮮だったなー。懐かしい。
ザイテングラートを通過したら、涸沢まではもう少しです。足首を捻らないように注意しながら歩きます。
7:05 涸沢小屋に到着。
1年ぶりに涸沢カールの絶景を楽しみます。
小屋から前穂方面。
「あのちょこっと飛び出ている部分が狸に見えるから『狸岩』って言うんだよ。」とKさんに教えてもらいました。残念ながら、私に目には一度も狸に見えることはありませんでした。
昨日登った奥穂高岳です。いつ見ても、どこから見てもその姿には惚れ惚れします。
サクサク下りる(涸沢カール→横尾)
7:30 上高地に向けて出発です。
こう見ると涸沢から北穂に直登するのも楽しそうです。
涸沢を出ると、標高が下がっているのに比例して周囲の木々が高くなっていきます。日陰が多くなるのでこの時期は快適です。(登りは日陰だろうが暑いですが…)
この山の何という山でしょう。槍穂の稜線上なので南岳?
8:20 本谷橋に到着。
涸沢に登る時の良い休憩スポットですが、下りの今日は特に疲れていないのでスルーします。
本谷橋から少し進んだところで右手に出てくる大迫力の岩壁は「屏風岩」です。
日本のクライミングのメッカだそうです。
誰か登っていないかなと目を凝らして探しましたが今日は誰もいないようです。
まとまった下りを終えると平坦な河原に出ます。ここまで来るとあとは上高地までずっと平坦な道のはず。
横尾大橋から前穂、明神岳方面。橋の上は風が心地よいです。
退屈な林道歩き(横尾→徳沢→明神→自然探勝路→岳沢湿原→上高地)
9:00 横尾に到着。先に進む前に少し休憩しましょう。
横尾山荘の前では多くの登山者が休憩していました。今年は新型コロナウイルスの影響か、山荘の中は人が殆どいませんでした。
ここからの行程は、右側から前穂、明神岳が旅のお供をしてくれます。
上高地まで11km。数字で示されると遠いなー。
嘆いても距離は変わらないのでぼちぼち出発します。
横尾から特に変わらない景色の林道を歩きます。最初は森林浴気分で楽しいのですが、さすがに変化が無さ過ぎて飽きます。
10:15 徳沢に到着。
ここに来たらこれ!ということでソフトクリームです。美味い!
昨日、一昨日のビールのお礼がまだだったので、Kさんにも購入しました。
ここまで来ると登山者だけではなく、キャンプや観光客もいます。
あのテント、初めて見ました。ベースキャンプみたいですね。
徳沢から明神の間では何匹もの猿がウロチョロと歩き回っています。
親子猿。
11:15 明神に到着。
一度も入ったことがない明神館。今回も通過してしまいました。
行きでも帰りでも、休憩するには微妙な位置なんですよね。
明神から真っ直ぐ上高地に歩いても良かったのですが、特に急いでもいないということで、明神橋を渡って梓川の右岸側を歩くことにしました。
岳沢湿原に到着です。
ここまで来ると、登山というよりは散策と言った感じ。上高地のホテルに泊まった方もTシャツに短パンでこの辺りを歩いていました。
そろそろゴールですね。
無事、下山(上高地→平湯温泉)
長いようであっという間の3日間でした。
先程までいた3,000mの世界は雲の中です。
上高地はコロナ禍でも賑わっていました。
焼岳。1日目にロープウェイの駅から見た印象とはまた違った雰囲気です。
バスターミナルまで来ました。
ここから平湯温泉までバスで帰ります。バスは1,200円ほどだったと思います。
平湯温泉に戻り、近くの「ひらゆの森」で3日間の汗を流します。露天風呂が広くてとてものびのびできました。確か500or600円。
これにて国内最難関「ジャンダルム」登山、終了です。
梓川SAで食事をした後、Kさんと運転を交換しながらだらだら帰りました。
お疲れ様でした。
まとめ
今回の山行は、これまでの登山の中でも、最も険しく、最も楽しい山行でした。
最初は不安も大きかったですが、歩いていく中で自分の成長を感じることができ、声をかけてくださったKさんには大変感謝しています。また、是非ご一緒したいです。
今後も、自分の実力と相談しながら、行きたい山にどんどん登っていきたいと思います。
また、山にいながらカード決済ができることの便利さを体感し、導入には相当なハードルがあることは分かりますが、他の小屋でも使えると便利だなー、なんて我儘なことを思ってしまいました。
ではでは、また山に行ったら更新します。