※20200917~20200918剱岳(撤退)
「北アルプスと言えばどこ?」
山をやっている人に聞くと、「槍ヶ岳」「穂高」に並んで必ず名前が挙がるのが「剱岳」。映画の題材になっていたりするので、山に登らない人でも聞いたことはあると思います。
剱岳は北アルプス北部の立山連峰にある2,999mの山で、「一般登山者が登る山のうちでは最も危険度の高い山」と言われています。初めて登頂されるまでには色々なドラマがあったと言われています。(詳しくはGoogle先生に聞いてみてください。)
登山ルートは2つあり、1つは立山黒部アルペンルートの室堂から入山し、難易度の高い岩場を登る別山尾根ルート。もう一方は富山県上市町の馬場島から標高差2,000m以上を一気に登る早月尾根ルート。
と、書きましたが、タイトルで分かるかと思いますが、残念ながら登頂できませんでした。その理由は是非本文をご覧ください。
行程はこんな感じ。
<当初の予定>
1日目:扇沢→室堂→雷鳥沢キャンプ場→剱御前小舎→剣沢野営場
2日目:剣沢野営場→剣澤小屋→剣山荘→剱岳→剣山荘→剱澤小屋→剣沢野営場
<実際>
1日目:扇沢→室堂→雷鳥沢キャンプ場→剱御前小舎→剣沢野営場
2日目:剣沢野営場→剣御前小舎→雷鳥沢キャンプ場→室堂→扇沢
※そうなんです。どのピークも踏めませんでした。
では早速行ってみましょう。
乗り継ぎ(扇沢→室堂)
登山前日。今回もKと2人旅です。山形から8時間くらいかけて、長野県は大町市にやってきました。案の定、Kは助手席で爆睡。(まあ、Kの車で私が爆睡することもあるので文句は言えませんが…。)
夕食は市内の「鹿ジビエとボリューム満点手作り定食のお店カイザー」で「鳥南蛮定食(1,140円)」をいただきました。大盛りが嬉しい、大満足の食事になりました。
食事後、扇沢の駐車場まで車を走らせ、この日はここで車中泊。明日からの冒険に備え、英気を養います。
9月中旬の車中泊は何も使わないと少し寒かったので、寝袋を使って寝ました。
翌朝。天気は微妙。いつ雨粒が落ちてきてもおかしくないような空模様です。そもそも天気予報も良くないのであまり期待はしていません。とりあえず登頂できれば、と思って山形からやってきました。
まずは扇沢駅へ。駐車場からは徒歩5分ほど。
駅の目の前にも駐車場がありますが、そちらは有料でしたので貧乏トレッカーの当方は少し離れた無料駐車場を利用しました。
扇沢駅です。色々な人のブログで見た光景に来ちゃいました。
切符を買います。
始発は7:30ですが、1時間前から列が出来ていました。
扇沢から室堂まで、往復で9,210円。クレジットカードで決済可能です。
因みに、このチケットは5日間有効。従いまして、5日間を越える大縦走で使用する際は片道分を購入し、帰りは室堂で改めて片道分を購入してください。
待合所はこんな感じ。
待っている間に駅員さんの即興お土産販売会が開催されました。面白おかしく商品を紹介する駅員さんに、眠気を吹き飛ばしてもらえました。(これから登山なので、商品は下山時に物色することにしました。)
モニターに室堂のライブカメラの映像が映し出されていましたが、画面が壊れているのではないかと思うくらいの真っ白さだったので、見なかったことにしました。
7:30 電気バスで黒部ダムへ移動します。新型コロナ感染拡大防止のため、バスの窓は開いていました。
バス内には今は知っている関電トンネルの歴史を解説する音声が流れていました。「破砕帯」という区間の工事は困難を極め、わずか80mの破砕帯に対して7か月を要したそうです。(詳しくはGoogle先生へ。)
10分程度で電気バスは終了。
ただ、この日は文明の利器4連発で高度を上げていくので、あと3つ乗り継ぎます。
次のケーブルカーの黒部湖駅まで、黒部ダムを通って向かいます。
7:45 初の黒部ダムです。
そして遂に雨が降ってきたのでカメラをザックにしまいました。
本当はゆっくり写真や動画を撮りたかったのですが、雨脚が強まってきたので小走りでダムを後にします。
名残惜しくてスマホで撮影①
名残惜しくてスマホで撮影②
すごい迫力です。
次に乗るケーブルカーの駅「黒部湖駅」に到着しました。
8:10 ケーブルカーに乗ります。
ケーブルカーに乗る前の階段が足にきます。こんなところでバテ始めてていて本当に登頂することが出来るのか、不安になってきました。
8:20 黒部平に到着。
ケーブルカーの時間も10分程度で、あっという間に着きました。
8:35 間髪入れずにロープウェイに乗り、「大観峰」に到着。
どんどん標高を上げてきています。
最後に二度目のバスに乗り、室堂に向かいます。
途中、立山三山の主峰「雄山」の直下を通りました。
8:50 バスを下ります。
乗ってきたバスはこんな感じ。何台かでまとまって運行しているようです。
出口の手前にあった看板。
「視界→良好」だそうです。信じていいんですか?
白い世界(室堂→雷鳥沢キャンプ場)
9:00 室堂に到着。
絵に描いたような白さです。信じる者は救われませんでした。
視界良好の基準を教えていただきたいです…
ただ、雨は降っていません。
念のため、レインウェアを着て歩き出します。まずは雷鳥沢キャンプ場を目指します。
みくりが池もご覧の通り。よくインスタで見るリフレクションなど、見る影もありません。
「今回はそもそも天気には期待していなかったじゃないか。」そう自分に言い聞かせて足を前に出します。
みくりが池温泉が見えてきました。この辺りから薄っすら硫黄の刺激臭がします。
みくりが池温泉を抜けると、地獄谷の覗くことが出来る「エンマ台」に着きました。
風向きによっては、いきなり硫黄の臭いがキツくなります。
天気が良くなることはなさそうですが、いきなり崩れる様子もないので、ここでザックからカメラを出しました。
やっぱりスマホよりも写真を撮る楽しさが増しますね。(重いけど)
天気が良いときに再訪したいポイントだらけです。
この石畳を歩いていきます。
山に抱かれた道を歩く。気分が高揚してきました。
「血の池」
物騒な名前です。
9:50 雷鳥荘に到着。
ここから石畳の階段を下りると雷鳥沢キャンプ場です。コースタイムで30分ほど。
大人気の雷鳥沢キャンプ場もこの天気で幕営数は数えるほどしかありません。
※この時点で撤退を考えるべきだったのかな、と後から考えたりしました。
癒しの雷鳥(雷鳥沢キャンプ場→剱御前小舎)
10:05 雷鳥沢キャンプ場に到着。
カラフルなテントが所狭しと並んでいるのが本来のここの光景ですが、上から見た通り、今回は数張りしかありませんでした。
10:10 まだ休憩するほど歩いていないので、雷鳥沢キャンプ場をノンストップで通過し、雷鳥坂に取り付きます。
色々な方の話を聞くと、剱岳よりもこの雷鳥坂の方が大変という声もあったので、心して進みます。
雷鳥坂の終点にある剱御前小舎は、コロナ対策で今シーズン、休憩での利用は出来ないようです。
雷鳥坂を登りだして10分。何となく雷鳥坂が大変だと言われる理由が分かったような気がします。
延々と同じような景色が続いて、進んでいる気がしないです。
それでも振り返ると雷鳥沢キャンプ場が眼下に広がっています。
つくづく天気が悪いのが残念です。(でも気温は涼しくてペースを上げても汗をかかないので、その点はいいかも。)
話しかけても返事がないのでどうしたものかと振り返ると、少し離れたところでダラダラと歩いているKを発見。
彼も私と同様、どこまでも続くこの坂の洗礼を受けているようです。
頑張ってくれ。君のザックには私も使うテントが入っているんだ。くたばってもらっては困る。
後ろのKを気にしながらふと顔を上げると、、、
また会えました。雷鳥さんです。初めて会ったのは穂高連峰縦走の時なので、1か月ぶりの再会です。
雷鳥は天気が悪く、ガスの方が遭遇しやすいと言われています。
悪天候も悪いことばかりじゃないなー。
しかも2羽目も出て来てくれました。足を止めて癒されタイムに入ります。
夢中で写真を撮っていたらKが追い付いてきたので、雷鳥の存在を教えるとテンションが普段の3倍くらい上がっていました。Kにとっては初雷鳥の瞬間でした。
ボス、現る(剱御前小舎→剱沢野営場)
11:20 剱御前小舎に到着。
本日の山場であった雷鳥坂を登り終えました。雷鳥に会えたこともあり、評判ほど大変には感じませんでした。
Kを待ちます。
15分後、Kが到着しました。
11:45 少し休憩してもらい、体力が回復したところで、本日の目的地である剱沢野営場に向かいます。
剱御前小舎は剱沢野営場&剱澤小屋と剣山荘の分岐になっています。
小屋泊で剱岳登頂を目指すのであれば剱澤小屋と剣山荘を選べますが、剣山荘に泊まった方が山頂は近いです。
私達はテント泊なので選択肢はなく、剱沢野営場に向かうことになります。
剱沢野営場へはコースタイムで40分ほどの下り道です。
足場が少し不安定なので慎重に歩きます。
15分ほど下ってきたところで、正面に目標物が現れました。
山頂は雲がかかっていて全貌はまだ見て取れませんが、大迫力の山容です。
Kにポーズを決めてもらい、それっぽく1枚。
この背景ならどんなモデルでもかっこよく写るでしょう。
歩いてきた道はこんな感じ。足を捻らないように気を付ければ、後は特に目立った危険箇所はありませんでした。
どんどん大きくなる剱岳にワクワク半分、ドキドキ半分。
写真の左下に見える小屋が剣山荘です。剱沢野営場から30分くらいかかります。
長い夜(剱沢野営場,剱澤小屋)
12:20 剱沢野営場管理所に到着。テント場利用の受付をします。
管理所のワイルドなお兄さん曰く「今日の夕方から大荒れで明日の山頂アタックは厳しいと思う。こんな予報の時によく来たね。君達は相当クレイジーだよ。」とのこと。褒められているのか、バカと言われているのか。恐らく後者ですが、それは考えないことにしましょう。明日はそんなに荒れるのかな。
確かにテント場には私達以外に1人しかいませんでした。
ほぼ貸し切りじゃん!(←バカです)
山頂に雲がとれてきました。明日はあそこからこちらを見てみたい。
管理所の脇から剱澤小屋に行けるようです。
場所は選び放題だったので、剱岳を正面に眺められる特等席にテントを張りました。
テントを張ったところで昼食をとります。(持参したカップ麺です。)
さらっと昼食を食べ終え、剱澤小屋を覗きに行きます。
テント場から10分ほどで到着しました。
小屋内では飲み物やTシャツなどのグッズが販売されていました。コロナ対策で宿泊者以外は中に入ることは出来ず、入り口で商品を選ぶことになります。
昨年の槍ヶ岳でもTシャツを買っていたKは、今回も迷わず購入。
折角なので剱岳と一緒にパシャリ。
見たことのあるこの標柱はここにあったんですね。
暗い曇り空が一層険しさを引き立てます。
手前のピークが前剱でしょうか。あそこに行っただけで達成感を感じてしまいそう。
というか、どこを通って行くんだろう…
剣山荘もここからだとよく見えます。
ずっと眺めていられます。
剱岳の雄姿を何とか上手く収めたいと、ああでもないこうでもないと試行錯誤を繰り返している私です。
剱岳の肩の奥にもカッコいい山々が見えます。
少し風が出てきて、もう1枚羽織りたくなってきたので、「あとからまた来て撮ればいいか」と、一旦テントに戻ることにしました。
が、結果的にこの写真が剱岳を見た最後の瞬間になってしまいました。
テント場に戻り、とりあえず無事に1日目の行程を終えられたことを祝して乾杯。
飲み始めたら「写真は明日以降も撮れるからいいや」という気になってしまい、ダラダラと過ごしました。
※以降、朝になるまでの写真が1枚もありません。面倒だったという訳ではなく、本当にそんな余裕がありませんでした。
18:00 暗くなったあたりで風が急に強くなり、テントを揺らし始めました。暫くすると雨も降ってきて、完全に嵐になりました。
19:00 嵐は酷くなる一方で、テントを内側から抑えながらなんとか耐える時間が続きます。徐々に恐怖感が出てきました。
21:00 ただテントが飛ばされないことを祈ります。時折、テントが浮くような感覚があります。
23:00 テント内の浸水を確認。テント本体が強風で破れ、そこから雨が入ってきているようです。ただ、修復作業を行うのにヘッドライトの光だけでは弱く、朝にならなければどうすることもできません。
1:00 日付が変わっても状況は悪くなるばかりで、テントのポールが折れました。Kは何かを覚悟したのか寝袋に入り、話しかけても返事をしなくなりました。
もはや、テントはその役目をなさなくなり、雨に降られ、風に吹かれ、ただなかなかやってきてくれない朝を待ちました。こんなに夜が長く感じたのは初めてでした。
強風で時折、石が飛んでくることもあります。
「死ぬかもしれないな。」
本気でそんなことを考えていました。
満身創痍(下山)
とてつもなく長い夜が終わり、朝が来ました。
結局一睡も出来ず、テントも私達もボロボロです。
寝袋から出てこないKに声をかけ、今後の行程を話し合います。と言っても2人とも山頂に行けるとは微塵も思っておらず、すぐに撤退することが決まりました。
朝食の菓子パンを咥えながらビショビショに濡れた道具たちを何とかパッキングし、
7:30 下山開始です。昨日来た道を戻ります。
テント場管理所のお兄さんからは「よく生きていた。来年またおいで!」と言ってもらいました。
朝になったからと言って天気が良くなったわけではなく、気を抜くとよろけてしまうような強風の中を歩いていきます。
剱御前小舎に着いてから気付きましたが、ザックカバーが強風で飛ばされてしまったようです。飛ばされないようにちゃんとロックしていたはずなのですが、、、自然の驚異を感じました。
剱御前小舎からも来た道を戻ります。悪天候過ぎて辺りはホワイトアウト。まだ冬じゃないんだけどなー。(エンマ台の手前で雷鳥3羽が先導して歩いてくれたことが下山時のハイライトでした。)
無心で歩き続け、
10:00 下山完了。
室堂からは昨日と同様、バス、ロープウェイ、ケーブルカー、バスを乗り継いで扇沢まで帰ります。
帰りの黒部ダムは雨が止んでくれました。
折角来たので、びしょ濡れの私達でしたが、周りの人の迷惑にならない範囲で楽しみました。
13:00 無事に扇沢に帰ってきました。
お疲れ様でした。
まとめ
下山後は近くの温泉を探して入りました。ここの温泉は500円。(モンベルカード提示で100円引きになるみたいでしたが、カードが車の中にあって取りに戻るのが面倒だったので割引なしで利用しました。)
※コロナ対策で長野県民以外の立ち入りを制限している温泉が多かったので探すのが大変でした。
温泉の後、何か地元の名物グルメを食べて帰ろうと松本市まで南下し、山賊揚げを食べました。(千石食堂 山賊焼定食1,300円)
ボリュームがあり過ぎて残すことも考えましたが、意地で完食しました。(胃もたれで帰りの運転中、込み上げる瞬間が何度かありました。)
今回の剱岳登山。残念な結果になりました。
・天気予報を入念に確認すべきだった。
・テントを張る位置をもう少し考えるべきだった。
等々、反省すべき点は多々ありますが、まず思うことは
「生きててよかった」
これに尽きます。
今考えると、命の危機とまでは言えないかなとも思いますが、あの時は間違いなく追い込まれていました。ある意味、貴重な経験が出来たと思います。
山は楽しいだけではない。
分かっているようで分かっていなかったことを今回学ぶことが出来たと思います。
山を楽しむために身に着けなければいけない知識や技術がまだまだあることを実感したので、ここで終わりにせず、これから少しずつでも勉強していきたいと思います。
いやー、山は深いですね。これだからやめられない。
剱岳、来年また行くぞ。待ってろよー。
ではでは、また山に行ったら更新します。
下山の翌日(=今日)から秋晴れになったようで。数日違うだけで表情が一変するから山は難しい。
— daichi (@dai2222222) 2020年9月19日
夕方から続いた暴風雨によってテントは破壊され、一睡も出来ず。命の危険を感じ、無念の撤退。
あんなにも夜が長く感じたのは初めてでした。また来年出直します。とりあえず生きてて良かった〜 pic.twitter.com/pJ0Y5M58Ef